朝食【桃也】 ページ4
目覚ましが鳴るよりも前に、強い日差しで意識が覚醒する。
クローゼットからいつものスーツ諸々を取り出し着替える。
珍しくネクタイは青色の物を選んで着けた。
扉の向こうからガチャガチャという物音と、何かが焼ける音が聞こえた。
彼奴、自炊できないのに……
我が家のキッチンが無事である事を祈りながら、寝室のドアを開ける。
「おっ、桃也おはよ」
『はよ。何作ってる?』
フライパンに丁度蓋を被せようとしていた海貴の後ろから、フライパンを覗き込む。
「目玉焼きとウインナーです」
親指を立てながらこちらに満足そうな顔を向ける。
よく家庭科教師にドヤ顔ができるものだ。舐めないで頂きたい。
フライパンに蓋を被せたのを見届け、リビングに置いたままにした煙草をポケットに入れる。
学校で吸うような事は極力したくないのだが、まあ何かあった時用だ。
同じくライターもポケットへ入れた。
洗面所で髪を整えていると、遠くから俺を呼ぶ声がした。
ちょっと待ってと返し、前髪をスプレーで固める。まあこれで良いだろう。
リビングへ行くと、先ほどの目玉焼きとウインナー、パンとご丁寧な事にマーガリンまで用意されていた。
何故こんなにも俺の家にある皿やら食べ物やらを把握しているんだかよく分からないが、まあ彼が来るようになってもう数年なのであまり深く気にするようなことではないんだろう。
『いただきます』
「どうぞ〜」
その返答を聞き、わざわざ準備していてくれた箸を手に取った。
目玉焼きを四角に切り取って口に入れる。あまり塩胡椒で味付けはしていないのか、薄味の物だった。
たまには良いかと二、三口と目玉焼きとウインナーを咀嚼した。
俺はバターナイフを手に、パンにマーガリンを塗っていった。
『海貴はこれから帰る? 仕事とかは?』
「うちは金曜休みだからなあ。タクシーで優雅に帰るよ」
羨ましい会社だと吐き捨て、パンを齧る。トースターで焼いたであろうパンは、思ったより中はふわふわとしていた。
「教師、忙しいと思うけど頑張ってね」
『勿論。言われなくても』
ごちそうさまと礼を言い、ゆっくりと食べ進め続ける彼の横を通ってシンクに皿を置く。
弁当には昨日の物諸々を詰め、二つ分を丁寧に縛った。
その間に来た海貴の皿も洗ってしまい、今日は早めに学校へ向かう事にした。
「いってらっしゃ〜い」
『行ってきます。そこの鍵で帰る時閉めといて』
ドアを開けると、花粉がつんと鼻の奥を突いた。
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