先輩【花霞】 ページ3
締まりきっていなかったカーテンの隙間から光が差し込んでくる。
それが顔に当たって、いやでも目を覚ましてしまった。
目を覚ましたはいいものの、起き上がることはできなかった。朝弱いし、今日はなんとなく気乗りしなかった。
横では光希先輩が規則正しい寝息を立てている。
その顔を見ると変に安心してしまって、このままここに居たいとまで思ってしまう。
そう言えば、昨日結局何も食べないで寝ちゃったな。
お腹すいた気がするし、食べてみようかな。
ベットかた身を起こし素足が床に触れると微かに冷たくて、まだ寒いんだと再確認する。
起こさないように、ゆっくりと扉にてをかけて、音がしないように開ける。
おにぎり食べたら帰ろう。置き手紙とかしたらたぶん大丈夫だと思うし。
昨日借りた服から昨日仕事に来ていった服に着替えてしまおう。
帰ったら新しいのに着替えて、朝ごはん食べて…そしたら早めにここを出なければいけない。
とりあえず着替え終わったので、そのまま昨日コンビニで買ったものたちが入っているレジ袋を持っていく。
一通り準備ができたので、そのまま部屋を出て行こうとした。
そう言えば、あれから一向に着信が来る気配がない。諦めてくれたのだろうか?いや、そんなにすんなり諦める人でもないか。
変に希望を見出さない方がいい。現実とのギャップに驚くのはもう懲り懲りだった。
玄関まで来て、流れるように靴を履く。
誰もいない部屋に小さな声で「お邪魔しました」とだけ言い残し玄関の扉ノブを握る。
「花霞ちゃん?」
寝起きではないようなスッキリとした、でもどこか落ち着いて大人びているような、光希先輩らしくない声で花霞と呼ばれるので、そのまま振り返る。
誰もそれ以上声を発することはなくて、静かな空間が出来上がってしまった。なんとなく気まずいし、とりあえず挨拶しないとだよね。
『光希先輩、おはようございます。ボクこれから仕事行くので失礼しますね。』
それだけ言って出ようとした。そうじゃないと、いよいよ此処から離れたくないと、行きたくないという気持ちが言葉に出てしまいそうな気がした。
言葉に出てしまったら終わりなんだ。言葉にしなければ、それはまだ静慮できる範囲内だということ。
「花霞、行かないで?」
いつもより落ち着いている声、珍しい呼び捨て、加えてお願いという形の言い回し。
優しさというよりは、慈愛に溢れるような声に聞こえた。
さて、学校にはなんて言って休もうかな。
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