流星群の奇跡【後編】

92 K ページ43

ニカの時とは違って、頭一つ分ほど違う。
だから、藤ヶ谷に抱きしめられると、ちょうど藤ヶ谷が俺を抱き込む体勢になって、唇が俺の項に触れる。


首筋に直に触れる毛先や、呼吸が少しくすぐったい。


この体がいいって言われるのも、何か悪くねーな。
藤ヶ谷が言うとちょっとえろく聴こえるけど……



何度か仕事で経験した。俺だってこの腕の中この位置が落ち着く。
仕事じゃなくて、触れられる。抱きしめてもらえる。
まだまだ実感なくて、正直夢心地だ。




俺も藤ヶ谷の背中に手を回して、羽織ってたロングカーデの薄めの生地をぎゅっと握りしめた。



皺になったらごめん。
でも何かにしがみつかないと、幸せすぎて倒れそうになるから。



藤ヶ谷は本当に俺を想ってくれていたんだと、どこかまだ分かってなかった自分。だけど今体を通して、温もりが細胞に教えてくれる。




気持ちを本当に繋げたあの日、キスは出来なかった。
保留していた。



早く触れたい。
触れてほしい。


でも、今自分から行動を移すには、もう体がキャパオーバーしていた。



「……俺も、この位置からの藤ヶ谷が好き」



体は動かせないまま
何とか口を動かせた。
本当は自分から行きたい派なのに。
本気で行きたい時は、想いが強すぎて身動きがとれなくなるんだと気付いた。


だって、自分の体なのに、指先が動かない。
まるで金縛りにあってるみたい。



キス……してーな
ちゃんとタクシーでリップ塗ってきたし。
うん。



マグロ状態の俺
藤ヶ谷がそっと俺から離れた。
肩口をそっと押される。



……やばい真剣な藤ヶ谷の顔
マジでかっこいい……


近づいてくるその顔に、そっと目を閉じた。




「……ごめん。シャワー浴びてきて」



え？聴こえたシャワーを促す声。
え？キスじゃねーの？
もう、先にするノ？
え？こういうのって順番あんじゃねーの？


は？藤ヶ谷はキスとえっち両方いっぺんにこなす人なの？




……なんか、やだ。
大切にしてほしいなんて、そんな可愛い女の子みたいなこと言うつもりはねーけどさ。



「……帰る」



高揚した気持ちは、ジェットコースターが下降した時のように急速に冷めていく。



「あ、ごめん！勘違いしないで！」



ふっと表情を無くしただろう俺に気付いたのか、藤ヶ谷は俺の肩口から両手を離して、目の前でバタバタさせた。



「何か…よりによって今日の北山、千ちゃんの匂いがすんの！」
「へ」


はい？千賀……？
なんで？

93 K→←91 K

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す