流星群の奇跡【後編】

75 K ページ26

この姿になって、感謝したことは大きくふたつ。


藤ヶ谷と普通に話せるようになったこと。
映画に行ったり、二階堂を混じえてだけど食事に行ったり、距離感がぐっと縮んで、懐かしさと同時に新たな藤ヶ谷も知れて、もっと好きになったこと。



もうひとつは、ニカのおかげで「俺」は藤ヶ谷と何故か付き合えてるということ。



両方とも二階堂のおかけだ。
プラベでも藤ヶ谷と出掛けられたのも
藤ヶ谷の心をほだし、付き合えるようになったのも。




この二階堂の姿になって、二階堂が俺の姿になったから。俺は今は二階堂なんだ。
藤ヶ谷にまたね、と挨拶をする。



手前に来ていた扉のドアハンドルを握った時、



「ねえ、ニカ。ちょっと相談があるんだけどいいかな？」



普段俺には向けられなかった柔らかい声が耳に届いた。
今の俺と藤ヶ谷の身長差はほぼほぼない。
若干藤ヶ谷のが高いがぐっと首を上げて見上げる程ではない。
だから余計に距離感が掴めなくなる。



俺は、自分の身長だったから
普段、距離感を保ちやすかったのかもしれない。




「相談…？」
「あ、北山のことなんだけど…」



何のことかと不意に聞き返してしまった言葉に
深刻そうな声色で耳打ちされる。



そっか、
ニカは二人のこと知ってる、ってことになってたんだっけ。
想定外にアイツがそう言いのけた時はびっくりしたが、後々のことを思うとその方がやりやすいと思ったし、アイツの機転にも驚かされた。
ほんとに反抗期だったアイツの成長はここ最近特に著しい。変わったよな……



「あー、うん。何かあった？」


昨夜のことかな…
二階堂ちゃんとうまく謝れなかったのか？
何か誤解を生むようなこと、してねーよな…？
せめて、お願いだから……
俺が俺に戻るその瞬間までは……
恋人でいて欲しい、なんて自分勝手な欲が錯綜する。




「ここじゃなんだからさ……」


確かに。少し離れたソファに宮田と玉がいる。
横尾さんならもしかしたら知ってるかもしんねーけど、あの二人はまず知らないだろう。



「あ、ロビーでも行く？」



ロビー誰もいないといいけど…
なんて、先程素通りしたロビーの光景を思い出しつつ提案してみる。



「このあと仕事ある？」


その質問には、首を横に振った。
仕事はなかったし、全力でフォローしたかった。今藤ヶ谷と別れることになったら、困る。


それは俺自身は一度も甘い幸せを感じられなくなるということで……
たった一秒でもいいから…隣で噛み締めたい。

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