流星群の奇跡【後編】

67 F ページ18

せっかく叶ったこの恋心を手放すなんて、ありえない。



「それって今のミツは愛せないってこと？」



グラスをコースターの上に置き、渉は箸に持ち替えた。
ジ、と灯りで若干反射するレンズ。
そのレンズの奥の険しい目つきを向けてきた。



「……まだ分かんない。でも正直今日はそう感じた」



冷たい、と。罵倒を浴びせられても仕方がない。
それほどにまで、俺にとっては肌が粟立つものだった。



「まあ、太輔の真っ直ぐなところは嫌いじゃないけど」



んーと、腕を組み始めた渉の眉根は困ったように寄っていく。



「焦らず、ゆっくりと。ちゃんと育んできなよ。過去のミツに縋らずにさ」
「……過去の？」
「ミツはミツなんだから。付き合ってから変わったと思ったとしてもさ、そのミツを愛せないと付き合う意味ないじゃん」
「……今の、」
「そうだから、過去のミツに執着ばかりしないで、これからのミツとの幸せな話を聞かせてよ」



付き合うということは、譲り合いだと聞いたことがある。どこまで譲歩できるか、どうか。
譲れるほど、相手を思いやれるか愛し抜くことができるかどうか。




「……北山に逢いたい」



変わる前の北山ばかりを思い描かないで、
現在の北山を見詰めていきたい。
いや、いかなければならない。



そう自然と口にしたその口を咄嗟に手で覆う。



視界が徐々に広くなる。
目が自然と見開いてしまったから



思い浮かんだ顔に驚愕してしまったから。




(ニカ……？)



その顔は、台本を掴む親指が微かに震えてるように見えたニカだった。



「それが聞けて安心した。それでこそ太輔！そーいえば、ニカはもう大丈夫なの？」
「え？！」



そのぼんやり浮かんだ人物の名前を呼んだ渉の声が聞こえて思わず声が裏返った。



「ミツに告白する前、血迷ってたじゃん。今日会ってみてどうだったのかなって」



そう渉が口にした後、店員さんが入ってきて、一旦会話は止まる。
並べられたサラダや揚げ出し豆腐を小皿に綺麗に取り分けてくれるその渉の手元を見つつ、あの震える指先を思い出す。




「……別に、普通だったよ」



はじめて、渉に嘘をついた。
本当は、昨日からニカがまた気になってるなんて
貰ったパンフレットを寝落ちするその瞬間まで枕の上で眺めていたなんて……


渉に嫌われそうで、叱られそうで言えなかった。



北山にハグされながらも、
少し離れた場所に座ってるニカが気になったなんて
到底話すことはできなかった。

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