流星群の奇跡【後編】

63 F ページ14

収録中、ニカはいつもより静かだった。
振られても上手く返せてないのが気になった。
北山もいつもよりアドリブがきかず、たどたどしい口調での進行だった。


VTRを観ながら、ワイプに抜かれてもいいように顔を作るのを意識しつつ、先程の楽屋での出来事を思い出していた。



振り返ってニカが出ていった扉を無意識に追って見詰めてると、いつの間にか北山はソファに戻っていた。



「そんなにアイツのこと気になるなら、そう言えばいいのに……」



確かに北山は笑って、そう言った。
アイツとは、ニカのことだろうか。
北山の目には、俺がそんなにもニカを気にしてるように映ったのだろうか。
そうだとしたら、なんて失礼なことを…俺は北山にしてしまってるんだろう。



「そんなことないし」


慌てて否定すれば
北山は含み笑いを浮かべた。


その意味深な表情には疑問だったけど続けて何も言われないから、俺もそれ以上は変に否定できなかった。



「……俺は、おまえを」



愛してる、何度も一人で呟いては伝えたかった想い。
伝えるのが許されるようになった今、ここで伝えてもなんら問題はない。


ニカが出て行って、この部屋には俺と北山しかいないんだから。


でも、躊躇してしまい続けることができなかった。
開いた口が徐々に閉じていく。



「……それは、藤ヶ谷が本当に言いたい相手に、言いたい時に言ってほしいかも」



無理して言うんじゃなくて、
まるで俺の言葉の続きがわかってるかのように。
そしてその言葉を告げるのを俺が躊躇したことを見破ったかのように、


北山は目を細めて言った。



俺はこんなにも簡単にこの恋心を失ってしまうのか。



「……いや、俺はおまえを愛してるから」



絶対に失いたくない。
あの日、夜通し一緒に曲を作った時の横顔を思い出す。
北山を想いながら、紡いだ詩。
「うまく繋がんねぇー」と嘆いて、柔らかそうな頬を机に押し潰して俺を見上げた少し茶色の瞳、その瞳に映るのが自分だけの夜。


あの夜を思い出せば、今の北山に違和感があっても見て見ぬふりをすることができる。



だって、目の前の北山は北山だ。
北山でしかない。



手放すなんて、馬鹿なことは決してしない。



そう真っ直ぐ見据えると、北山の目が徐々に大きくなっていく。



「…あのさ、本当は」
「おはよー」


何か言いかけた北山の言葉は、同時に聞こえた扉の音と共に入ってきた千ちゃんの声で遮られた。



あの時何を言いかけたんだろう……

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