流星群の奇跡【後編】

78 K ページ29

渡されたコーヒーに手を伸ばす。
二階堂はカフェオレも飲むしブラックも飲める。
そう記憶していた。
それは俺も同じ。


でも藤ヶ谷牛乳入れるかとか、砂糖入れるかとか聞いてこなかったなあ。
やっぱり、二階堂にこうして淹れてやるの初めてじゃねーのかな。
アイツはあんまり藤ヶ谷とは会ってなかったとは言ってたけど…俺に遠慮して隠してるのかもしんねーし。




一口、口元に運んだあと、ローテーブルに戻す。



これから俺は自分自身のプレゼンをしなくちゃいけなくなるかもしれないし、自分自身に向けられる愚痴や不満を聞くことになるかもしれない。


あいにくマグカップを持ちながら聴けるようなメンタルの強さは持ち合わせていない。
心して、横にいる藤ヶ谷に若干体を向けた。




「早速でわりーけど、話って…？」


誘ったのは藤ヶ谷とは言え、
俺が二人の関係を知ってる自称藤北推しだとしても
こう改まると切り出しにくいのでは、と思い
緊張しながらも俺から重い口を開けた。



藤ヶ谷は神妙な面持ちでマグカップをローテーブルに置く。
その中身は、俺より白く薄かった。



すっと目を伏せた藤ヶ谷の横顔はマジで綺麗で、
まつ毛の長さが際立つ。
この長さを眺めることのできるこの距離感にいれることだけでも幸せでほんとはのたうち回りたくなるが、その表情を目の当たりにすると、辛くもなる。



藤ヶ谷はそんな俺の気持ちなんて知らねーだろ？




俺はマジでお前に惚れてんだぜ。
20年近く。人生の半分以上も。



「うん。せっかく今日早く上がれたのに時間貰っちゃってごめんね」
「んなのはいーの！こうして美味いコーヒーだって飲めたし！」



せっかくいれてくれたんだよな
思い直して冷めないうちに、もう一度手を伸ばしてマグカップを取った。


唇をつけて、また一口苦味を味わう。
そんな俺を見て安心したのか、強ばっていた藤ヶ谷の顔が緩んだ。



二階堂のこのキャラにまた感謝だな。



「実はさ、今日楽屋に入る時、北山が千ちゃんの腰を抱き寄せてたのを見ちゃって…千ちゃんも北山の胸に顔を寄せてて」



……は？



「せっかく付き合えたと思ったのに、2人はデキてるのかなって、俺のことは遊びだったのかなって、本命は千ちゃんなのかなって、」



……え？
ちょっと待て！
アイツら！
せめて自宅までにとどめろよ！
なに楽屋でイチャついてんだよ！
今までプロ彼氏プロ彼女かと唸るほど、俺らに微塵もバレぬように隠し抜いてきたくせに…！

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