流星群の奇跡【前編】

9 K ページ9

「……ニカ、ひどいよ…」


言葉尻が窄んでいく千賀は、目を見開いた後、そっと瞼を閉じた。



「……千賀、」


俺の声で、甘く呟く二階堂の言葉が俺の耳まで届く。
入れ替わりの期間中、誰よりも迷惑をかけてしまう相手は千賀なんだと、ここで俺も認識した。



絶対、すぐに戻るから。
根拠も無いけど、そう拳を握りしめて誓った。




「……話があるんだ」


切り出した二階堂。
北山 宏光、俺の姿を見下げて、ぎゅっと泣きそうな顔をしてる。
千賀にとっても信じらんない話。
俺と二階堂と違って、確証がない訳だから、どこまで見えないものを信じられるかが、鍵となる。



だって、信じられる訳ねぇだろ？
物語の中でしか、起きるはずのない人格の入れ替わりなんて。




その重々しい俺の声に、千賀は何やら察したのか膝から崩れ落ちた。


両耳を塞いで。



「聞きたくない、」


と。



「……おれ、捨てられるの？」


と。



あら
崩れ落ちた姿への疑問点がすぐにわかった。
二階堂と俺が、くっついたとでも思ったのか。
まあ、二階堂の行動からしたら招いたとしてもしょうがねーかも。



友情のハグ、重々しい二人の雰囲気、黙りこくる二階堂。




残念ながら、俺に二階堂に対する恋愛感情なんて一切持ち合わせてねーし。二階堂も、もちろん。
俺には、藤ヶ谷という愛する人が居ますからねー。





「捨てるわけねーじゃん！」



それを返すのも、俺の姿でしゃがみこんだ二階堂。
二階堂は、千賀の頭をヨシヨシと撫でる。
いよいよ千賀も疑問と、軽い苛立ちのようなものを宿した瞳を上げた。
その瞳は少し離れた二階堂の姿の俺に向けられる。



両耳から、手がゆっくり離される。




「……ニカは何で何も喋らないの？」



今まで全部、二階堂が話してたんだけど。
二階堂の背中がビクッと動いた。



「……あ、いや」



俺が切り出すべきなのか、いやでも今回は二階堂が切り出すべきだろう。



言葉を続けることはできず、押し黙ると
千賀の濃いめの顔が余計に濃くなる。
ぐぐぐと不振そうに眉間に皺を寄せたから。




「千賀。実は、俺が二階堂 高嗣なんだ」



俺の声で、千賀に諭す二階堂。
その言葉をきちんと聞き取った千賀は、はぁと息を吐いた。




「ミツ、何言ってんの。今10月だよ？エイプリルフールに嘘つけなかったからって今更遅くない？」



千賀の瞳には今までの一連の流れが寸劇にでも映ったのか、お決まりの台詞を吐いて自嘲気味に笑った。

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