流星群の奇跡【前編】

8 K ページ8

言われた通りにドアのボタンに触れるとガチャと鍵が開く音がした。
そのままドアを引いたニカに促されるよう先に玄関へとお邪魔する。


広めなスペースに、
いくつかの靴が並んでいた。
ヒールやブーツが並んでる想像をしてたのに。
あるのは、大きめなコンバースのみだった。
多分、メンズ用…？



「ニカ、おかえり！」


ドタバタと頭の先から聴こえてきて、視線を上げる。
聞き慣れた声の主が、ふわりと柔らかく笑っていた。
それは普段見せない顔に見えた。



「……千賀？」


咄嗟に首を捻ってしまった。
多分、眉根もきゅっと寄せてしまった。
無意識に、疑問符が脳内をしめて。




ここに居るのは、ニカの恋人のはず。
千賀も混じえて何人かで会う予定だったのか？
ならそう言ってくれれば、



「…なんで宏光も？」



不満そうな顔に変わる。
二階堂の声で千賀の名前を呼ぶのと時間差で千賀が俺の後ろに居た俺の姿の二階堂に気付いた。




「…なんで千賀が？」



それに誘われるように俺も無意識にそう呟いていた。
俺は今、二階堂の姿なのに。
ちゃんと自覚してた。でも頭の中とは裏腹に口という器官まではコントロールできていなかった。



「ひどい…俺が居るって知らずに宏光を連れてきたの？」



何がひどいのか分からず、何も返せない。
すると背後にいた俺の姿の二階堂が、前へ出て千賀の腕を引き、俺の体へと寄せた。



は？
何でそうなんだよ、
訳も分からず、でも視線を落として見ないようにした。




「ちょ、宏光？！」


そりゃ、驚くだろう。
俺に抱きしめられれば。
中身が二階堂なんだって、知らねーわけだし。



ということは、姿が二階堂ならば
この場から違和感がなくなるということなのか？



女性物の靴がないこと、
二階堂の姿の俺に千賀が柔らかく微笑んだこと



俺の知ってる奴、互いに知り尽くしてる奴がニカの恋人だということ。



ああ、この二人付き合ってたんだ…と察するには材料が揃い過ぎていた。



自分が千賀を抱きしめてる、なんか複雑だなぁ…
驚きと複雑な心境の二重奏。
あとは、秘密を共有する協力者が増えたと思えば少し心強くもなった。



「離して宏光！ニカ？！なんで止めてくんないの？！」


俺の姿の二階堂の腕の中で藻掻く千賀は、助けを求めるように二階堂の姿の俺に手を伸ばす。


…ったく、理由も言わず抱きしめるなんて、いったいなんの変態プレイだろう。
思わず小さく笑うと、千賀は失望したように目を見開いた。

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