流星群の奇跡【前編】

44 K ページ44

藤ヶ谷へメールを返す。
会えることを伝えると、「港公園の橋のところで20時に待ってる」と返ってきた。
公園…？


その近くの店でも行くのかな。
いいな、あそこ夜景が綺麗で有名な場所だ。
湾に浮かぶ光とそこから見える橋のネオンが幻想的な場所。


待ち合わせ場所とはいえ、
藤ヶ谷と二人でその光景を見える事が喉から手が出るほど羨ましい。


でも、それは入れ替わってなかったら叶わないことだったから、どっちみち俺には縁のない話だ。



『分かった。また何かあったら連絡して。』



そう送って、俺も仕事の準備を始めた。
あーあ。
覗き見してえー。
でも、見たところで虚しくなるだけだし
会話までは聞こえない。
そんな距離にはいられねーから。


俺は大人しくここで待ってるしかない。



北山悪い。終わったら、うちに来てくんね?



ニカに送ると、OKというスタンプが返ってきた。
場所も伝えた。
もし、待ち合わせに遅れるようなら
俺が仲介でやり取りをすればいい。


俺だって今夜は充分時間がある。



今日スタジオに持っていく荷物を確認するため、昨日の鞄の中身を確認する。ジッパーがすーっと開いて、気付いた。思い出した。


昨夜の映画のパンフレットを渡すのを忘れていたことを。
きっちり2冊ある。


しまった、
ま今度、渡すか。
映画もジュースも奢ってもらったのに、俺は何もお返しが出来ていなかった。
そんな自分の失態に、落ち込み顔を手で覆った。



そのまましゃがみこむ。



「何やってんだよ…俺」



浮かれて、落ち込んで、緊張して、夢のような時間にお礼もろくにできなくて。



右手を上げて、1冊鞄の中から取り出した。
全体を覆っていた薄いビニールを破る。
ペラペラ捲り、載っている活字や切り取ったシーンよりも思い出すのは鮮明な藤ヶ谷の横顔。



昨日に戻りてぇ……



財布にしまっていた半券を取り出して、パンフレットに挟んだ。
この昨日という日を忘れないように。



この恋心は決して叶わないから
せめて、思い出の中では浸りたい。




藤ヶ谷はニカを本能的に潜在的に求めてるのかもしれない。そんな邪念を振り払いたくて、両頬を叩いた。



「切り替えろ、俺！」



今は二階堂なんだから。
彼の仕事を全うしないと戻った時に、迷惑がかかる。




あ、そう言えば…
流星群、昨日の映画でふと思ったこと…
あの晩は確かオリオン座流星群だった。
同じように流星群が近々ないか確認するために、スマホを手に取った。

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