169枚目 ページ36
「……で?結局お后様はその話に乗ったんですかィ?」
「まあね。もう、俺ってばずっと空気だった。めげそう」
ちゃぽん、と顎から雫が滴り落ちる。立ち上る湯気はほんのり硫黄の香が混じり、異国に来たと実感させるには十分な代物だ。
俺たちは今、城近くの旅館、その露天風呂に入っている。板1枚向こうにリオナたちが居る中、野郎共は頭にタオル乗っけてみたりして極楽極楽ボヤいている寸法だ。
ロンドくんはすっかり回復したらしい。少しリオナに魔法を行使されたらあっという間に意識を取り戻した。魔法って凄いね。
ふと、俺は視線を白濁する湯に落とす。そこには冴えないおっさんが映り、見つめ返してきた。
「なあ、ロンドくん。気になることあんだけど」
声音が変わる俺に、ロンドくんは視線を飛ばす。頭上のタオルを手で抑え、側面の岩場に背中を預けたまま首を傾げた。
「なんでさァ」
「君のお隣でさ、女湯の方の板に耳付けて聞こうとしてんのってさ、ヤマトくんじゃね?って」
「今更だろィ俺もやりてェ」
「俺もやりたいけど!!でもなんか!」
ばしゃ、と水を叩いて抗議しようにできない俺に、ヤマトくんはちらりとこちらを目線で辿る。耳をバッチリ壁につけたまま、至極真面目な顔で言い切った。
「なんだ騒々しい、僕は今静かでないといけないワケがある、魔王とやらは静粛に」
「いやそっちロンドくん!」
ロンドくんも魔王扱いされて満更でもない顔しないで!
ヤマトくんはハッとすると、耳をようやく離してこちらに向き直った。
「すまない。眼鏡を脱衣所に置いてきてしまった……異国の場合、よろしく頼む時は握手すると聞いた。本来は野郎など触れたくもないが、立場が立場だ、致し方ない……よろしごぼぼぼ」
「キャー!?ちょまっ何処に握手求めてんの!?何を握ろうとしてんの潜るな!おっさんの手こっち!おっさんのおっさん握ろうとするなロンドくんヘルプ!!!」
ニヤニヤしながら行く末を見守っていたロンドくんだったが、俺が命令!と叫べばやれやれとヤマトくんを宥めてくれた。その後、声音を低くしてボヤく。
「にしてもべらんめェ、羨ましいのなんの……俺も魔王様が居なけりゃ覗いたりしたかった」
「やりたいならすればいい。誰も止めはしないんだ、自然体で居ることが……どうせ見たくもない男の裸を突き合わせているわけなのだから、別にいいと僕はおも」
ヤマトくんは女湯から飛んできた桶で、完全に倒れた。
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モモハ(プロフ) - そらもちさん» あざーっす!アッもしかしたら中だるみなんでもないッス!てへ!(棒) (2019年4月28日 11時) (レス) id: 98af2b3beb (このIDを非表示/違反報告)
そらもち - 面白いっすね!続編も読むぜよ(`・ω・´) (2019年4月28日 10時) (レス) id: 35f31302c7 (このIDを非表示/違反報告)
モモハ(プロフ) - ひかげのこさん» ありがとうございます!めっちゃ張り切ります(*´ω`*) (2018年12月12日 17時) (レス) id: 0785378cec (このIDを非表示/違反報告)
ひかげのこ(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました!更新頑張って下さい! (2018年12月12日 15時) (レス) id: 256366ff3c (このIDを非表示/違反報告)
モモハ(プロフ) - 866さん» がんばります!(テストヲヤッツケタラ() (2018年10月8日 18時) (レス) id: 937a2c5722 (このIDを非表示/違反報告)
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