囲われたミツと花【前編】

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抵抗すれば、頬を殴られた。
声を出せないように、手で口元を覆われた。
ペンキが剥がれ落ちた、木目が見える個室の壁に押さえつけられる。



見上げた視線は、何層も張っている蜘蛛の巣の糸が光っていた。


俯けば、靴の跡がついた土が、床にいくつもあってその先は扉があり、鍵がしまっている。
ここが密室だと思い知らされた。
何度も散歩の時に、この公衆便所の前を通っていた。でもここに誰かが入って行く所を見たことがない。



絶望で身体はもっと震え出す。



殴られた頬が痛むよりも恐怖の方が勝つ。



あの頃に、記憶が引き戻される。



「…その顔、最高〜」



…もう、いいや。
太輔の言う通りだった。
外の世界なんて、いい事はひとつもない。



罰が当たったんだ。
外に出たい、だなんて思ったから。
面倒を見てくれた太輔に恩を仇で返すような事をしたから。
やるな、と言われてた事をやってしまったから。



玉ちゃんに似てても、この人は違う。
きっと世の中は、こういう人が多くて、玉ちゃんが特別なんだ。
運が良かっただけなんだ…



「……たま、ちゃん」



その自然と出た名前に、ハッとした時…
その目の前の男も手を止めた。



近づいてた唇が至近距離で止まる。



「うわっっ！」



そんな時だった。
ドアの上の隙間から、水が降ってきたのは。
ホースが、ぶら下がりそこから滝のように水が流れ落ちる。



ビショ濡れになったその男は、パニクっていた。
もちろん、俺も濡れて驚いたが、更に身体は硬直した。
高校の頃に、同じ事があったから。
トイレに逃げ込んだ俺の頭上からホースを介して水が落とされた事が。



男は、怒鳴りながら扉を開ける。



そこには、「ケーサツに通報したから」と、据わった目でスマホを持ってる玉ちゃんが立っていた。



この水は、あの頃とは違う。
虐めという目的の時に浴びたモノとは違う。
助けるために、浴びせてくれたモノなんだと分かった。
それだけで、冷たいと思っていた水は感情を持たせ、温かいとさえ思ってしまう。



それを聞いた金髪の男は、睨みつけると慌てて、去っていった。



玉ちゃんは、蛇口を閉めると、ビショ濡れになってるのなんて、気にしないかのように強く包み込んでくれた。ぎゅっと抱きしめられて、体温が伝わってくる。




「大丈夫だったか？！」




温めるように、そして無事だったのか、確かめるように、包みんでくれた。

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