囲われたミツと花【前編】

12 F ページ12

会議中、電話はサイレントマナーにするのが規則である。それ以外の時は、極力出れるようにしてあった。とは言え、宏光はむやみやたらに電話を掛けてくるヤツではない。


本当に緊急事態の時だけだ。
今までも宏光から掛けてきたのは二度ほど。


一度は、洗濯機をどうしても稼働させたくてスイッチを押したら泡泡になり洗濯機が水没したという連絡。すぐに知り合いの業者を手配して帰宅した。


二度目は、吐き気と下痢が昼間から凄くどうしても我慢出来ないという連絡。すぐに知り合いの医者を手配して帰宅した。


今回が三度目だった。


今回、間が悪く、会議が終わりすぐ掛け直してもコールのみで、出ない。倒れるかと思った。
宏光に何かあったのだと。倒れていたら、どうしようかと。全身から冷や汗が噴き出て、すぐに早退をした。


まさか、外に出てるなんて考えても見なかった。



マンションに急いで戻る。
靴を脱ぐのさえもどかしい。揃えず、脱ぎっぱなしにして、部屋に入ってもソコには宏光の姿がなかった。
あんこの存在など忘れていた。
部屋の隅から隅まで探した。
それでも、何処にも居ない宏光に、初めてそこで『外へ出ていった』という事実が頭を過ぎった。



マンションの周りを走って探しても、居ない。
こんな事なら違法でもGPSを宏光に埋め込めば良かったと身体中を後悔の渦で飲み込まれていた。



マンションの出入口の前で、いよいよ警察に捜索願を出そうかと思ってスマホを手にしようとした時、曲がり角から宏光が歩いてくるのが見えた。
俯く宏光に全力で駆け寄って、抱きしめていた。



そこで、聞いた宏光の話は俺にとって、
全てを破滅させそうな程、残酷なものだった。



宏光が外に出るということ。
あれ程、外は危ないところだと、出てはいけないと言い聞かせ囲っていたのに。
トラブルからとは言え、俺と連絡がとれなかったからとは言え、俺に言わず外に出てしまった。



あんこの生命を救ってくれたのは、もちろん、感謝してる。矛盾してるのは、分かってる。
でも、許せなかった。



宏光を救えるのは、俺だけなのに。
俺だけの仕事なのに。


宏光の口から出てきた獣医の「玉ちゃん」は宏光を救った。
宏光はまた三日後、病院に行ってもいい？と聞いてきたのだ。



そんなの許す訳ない。
「いいよ」なんて言う事が出来ない俺は、そのまま宏光の上に覆い被さると抱き潰した。



宏光は、俺の下で愛を一心に受けるためだけに生きていればいいんだから。

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