囲われたミツと花【前編】

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その理由を健永に聞けば、仕事を一方的な理由で退職願いを出した俺を心配して連絡をくれていたらしい。一向に返事がなく、様子を見に来てくれたという事だった。



部屋に入る為に、ウチの管理会社に依頼をかけてくれたそうだ。
健永は、新卒入社の頃から可愛がってる教え子だった。悩んだ時はすぐに相談をしてきて意見を求めてくる甘えん坊の部分もあるが、そこも買っていた。



「往診してもらいましたよ。インフルエンザだそうです」
「…は？こんな時期に？検査した覚えねえんだけど」
「ガヤさん、朦朧としてましたから。反応はしてましたが、多分眠ってたんだと思います」



何でもないように言い退ける健永に、自分がインフルエンザな事が信じられないでいると、診断書をパッと差し出し見せてきた。



「絶対安静ですからね。上司にも報告してあります。取り敢えず2週間の有給を下さるそうです。退職の話は保留だという事でした」
「…そんな、俺は……」



…あ、でも、もう......
辞める必要がなくなったのか…？
四六時中、宏光と一緒に居られなくなった。
宏光は出ていってしまったんだ、
記憶が蘇ってくる。



「なぁ…ここに、同い年ぐらいの男が訪ねて来なかったか？」
「来てませんよ。噂の恋人さんですよね？俺が来た時もいなかったです。」
「…そっか」
「もしかして、別れたんですか？」



別れた....？別れてはない。
宏光を離さない、離したくない。
でも、宏光は…？



「いや、別れてない」
「じゃあ連絡しましょうか？」
「…いや、いい」



宏光は、玉森の所にいるだろう。
この目で見たし、宏光の居場所はそれ以外何処にもないはずだ。
ケータイを持たせていなくても、居場所ぐらい分かる。




「…じゃあ、俺がガヤさんを看病します。ここに泊まらせてください。」
「…は？」
「心配なんです。ガヤさんは、何もしなくていいですから。この二週間ゆっくりココで休んでください！身の回りの事を僕にさせて下さい！」




それが嫌なら恋人を呼ばせてくださいと健永はただでさえ、鋭い目付きを更に尖らせ、言い放った。
退職を言い出した俺の心が病んでいないか、心配したんだろう。恋人とも上手くいってないように見える俺は彼の目に不憫な先輩だと映っていて、放っておけないんだろう。



身体も重い。助かるのは、確かだった。



「…じゃあ、お願いしようかな」



そう返すと、健永は屈託のない笑顔を見せた。
宏光にインフルが移っていないかが心配だった。

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