囲われたミツと花【前編】

19 K ページ19

見つけたら、居ても立ってもいられなかった。
場所を変えられたら、そこで終わってしまう。



「あんこ！外に行こう！」
「わんっ！」



太輔があんこの散歩の時に、つけてやるみたいに、自分もあんこの首に首輪とリードをつける。赤色のそれがよく似合っていた。



まだ、ギリギリ休診時間だった。
急いで、鍵をポケットに閉まって、あんこを抱き上げ部屋を出た。


記憶を辿りながら玉ちゃんの居るどうぶつ病院へと向かうため、エレベーターに乗って1階まで降りようとする。でも、既にエレベーターを待ってる人が居た。同じぐらいの年齢の男性が立っていて、乗るのを諦めた。…二人で密室になるのは、怖かった。



見ず知らずの人がそこに居るだけで、近くに居るだけで、身体が震えてしまう。



「く〜ん」
「ごめんな、大丈夫だから」



玉ちゃんは、大丈夫だったのに。
癒えたと思っていた傷は癒えた訳ではなかったのか。



「階段で行こうか」



最上階の10階から、あんこを抱っこしたまま駆け降りた。靴は持っていないから太輔のサンダルを履いてる。だから、少し大きくて脱げそうになる。



何とか、辿り着いた出入口。
方向は、あの角を曲がるんだった。
あんこを地面に離すと、嬉しそうに照り返すアスファルトに肉球を擦り付けていた。


「わんっ！」
「あ！ちょっ！」



急に強い力でリードを引かれ、それについていくしかなくなった俺は、足を取られないように気をつけて後を追いかける。


アスファルトを照り返すくせに、今日の雲は厚く大きな樹は鬱蒼と茂っていた。



「わんっ！」



あんこが立ち止まり、真っ直ぐ向いて吠えた。
その視線の先には、公園にある大きな樹の木下闇で立っている玉ちゃんとリードに繋がれて草と戯れてるトイプードルが居た。
トイプードルは、あんこに気付くと、大きな声で吠えて、玉ちゃんに知らせてくれた。




「……玉ちゃん、」
「ミツ、」



待ってたよと俺の名をもう一度呼び微笑んだ玉ちゃんの表情に、心がざわりと燻る。



わんちゃん同士は、互いの尻を追いかけながらくるくると戯れてる。…あんこも、やっと逢えたもんね。



そして、俺も……



「玉ちゃん、どうしてここに？」
「ミツと初めて逢った場所だから。ここに居たら逢えるんじゃないかって」



あんこの危機を救ってくれたこの場所で、玉ちゃんと再会した。



「中々来れなくてごめん、」
「逢いたかったよ、ミツ」



半袖シャツの玉ちゃんは何だか夏めいていた。

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