今夜君が欲しい【中編】

97 K ページ47

ベッドで転がりながら、くるりと向かい合い、藤ヶ谷の顔を見上げ、人差し指で藤ヶ谷の唇に触れた。
昨夜、この唇に沢山キスをされた。色んな所に吸い付いてきた唇。


「藤ヶ谷の唇ってさー」
「ん？」
「ぷにって柔らかくて、気持ちいいよなー」


それが、感想。
この弾力のある唇だから、身体中を電気が走り抜けるのだろう。
罪な唇だ。ぷにぷになのに、口角は、綺麗に窪んでる。



人差し指でなぞると、見上げた藤ヶ谷の眉は寄った。


「そう？」
「おー。よく言われね？唇気持ち良いって」
「…そんな事、知りたいの？」
「ん？」
「俺が、誰かとキスした感想なんて聞きたいの？」
「……」
「俺は、絶対聞きたくない。北山の口から、過去のオトコに気持ち良いって言われた事がある話なんて」



……藤ヶ谷って、独占欲....つえーんだな。
何か、ふと可愛く思えた。
深くなる眉間の皺。あからさまな嫉妬の炎を映してる瞳。何度も、セックス中見た表情。
このまま、また入れられなんかしたら、マジで腰が砕けちまう。



「悪かった…聞きたくねーよ。なあ、コンビニ行かねえ？」
「…お腹すいた？」
「おー。朝メシ食おーぜ」
「ふふ。もう昼ごはんの時間かも…ね？」
「うそ？！」
「北山、飛んだまま爆睡してんだもん」



藤ヶ谷に見せられたスマホ画面の時間は、11時を過ぎていた。



「…て！なんだよ！その写真」



その画面に映っていたのは、口を開けてる俺の情けない寝顔だった。



「待受にしちゃったー、可愛かったから」



「自分ので乱れてくれて、疲れて眠ってる恋人の写真、素敵じゃない？」そう耳元で、続けて囁かれる。


甘いオトコだ。藤ヶ谷は、



「ふふ、耳まで真っ赤。かわいー」
「…赤くねえし！」



赤くなんて、なるはずない。
藤ヶ谷の錯覚だ。顔が熱いのも、ただ藤ヶ谷の腕の中が暑いだけ。



決して恋人、その響きが…こしょぐったかったからじゃねえ。



「北山、大好き」



そう、告げた藤ヶ谷の唇がまた自分のそれに重なる。まるで食べられてしまうような甘いキスに、起き抜けの脳はもう蕩けてしまう。



「…あと、1回だけだからな！外に出せよ！」



顔を逸らし、藤ヶ谷の胸の突起を軽く噛みながら、言うと....藤ヶ谷はぎゅっと、更に抱きしめてくれた。
もう、出ないかもしれない欲は、藤ヶ谷を目の前にすると出そうになるから不思議だ。



一人で歩いていた道に戻る準備を始めるのを先延ばしにするのは、初めてだった。

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