今夜君が欲しい【中編】

89 K ページ39

浴槽に湯が溜まっている。
シャワーの蛇口を捻り、全開にすると冷たい水が流れた後、熱い飛沫が肌にあたる。


熱気と湿度が浴室に、満ちた後、藤ヶ谷はシャワーを止めた。濡れた肌。雫がポツンポツンと所々浮いている。



「身体、洗ってあげるね」


優しい口調なのに、何故か怖い。そんな含み声で告げた。なぜ怖いか、それは藤ヶ谷の目は笑う事などせず、無表情だったから。
曇った鏡に映る自分の身体を見れば、何となく察する事だった。



部長が残した痕が、身体中に咲いていた。
所々、満遍なく。あの人は、噛んだり、吸い付く事が好きな人だった。ふと思い出す。



ボディーソープのポンプを数回押し、スポンジで泡立たせながら、藤ヶ谷は首にそれを充ててくる。



「や、自分でやるよ」



身体を洗って貰うなんて、何て羞恥ぷれいだ。
まだ身体を重ねてもない相手と。セックス後ならまだしも、セックス前にするには流石に恥じらいだってある。
電気もついたままで、浴室は明るいし。



「却下」


有無を言わさず、藤ヶ谷は俺の身体を洗い始めた。



「………っん、」



優しく撫でるように、全身を泡立たせられ、無意識にくぐもった吐息が漏れる。



「気持ちいい？」
「…別に」
「なら、進めるね？」



スポンジの泡が、柔らかく肌に擦れる。
後ろから、腕を回し、前までスポンジが届く。



「なあ、せめて....電気消してくんねえ？」



電球の直下だ。明るく照らされた男二人が、曇ってると言えど鏡に映るには視線に困る。



「それも、却下。」
「はっ？」
「鏡で、北山の感じてる顔が見たいから」



…やば、何今の。
心臓が掴まれるように、訳もわからず疼いた。



「コレじゃ綺麗にならないね？」
「……あっ、ん.....」



藤ヶ谷はスポンジを床に投げ出すと、いきなり両手で、俺の全身をまさぐり始めた。


ボディーソープのヌメリと泡の滑らかさに包まれた身体を厭らしく撫でられ、今度は鳥肌が立つような快感が走った。ぞわりぞわりと浮き出るような、感覚だった。



入れられてないのに、こんなにも身体が快感を拾う事は初めてだった。



身体が、奥の奥から疼き、何かがこみあげてくる。
全身を緩く撫でた後、その両手は俺の胸元に伸びた。



「ひゃあっ、」



藤ヶ谷は、泡と一緒に擦り付けるようにして、俺の乳首を弄り始める。



「もう、こんなに勃ち上がってるよ？」



熱い吐息で耳元で囁いてくる。

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