今夜君が欲しい【中編】

77 M ページ27

机に向かって翌日の特集の原稿を確認していた午前2時。
寝なければいけないと分かっていながら…
眠る事が出来なかった。


北山さんを紹介して頂いた役員の方に昨晩、連絡をした。経緯は分からないけど、『北山さんはどれぐらいの期間で、案件を成立させてくれましたか？』と。そのメールの解答は、『3週間ぐらいかな』。


今回はやっぱり手こずってるのだ。
北山さんに依頼して、もう1ヶ月は経っていた。


残りの着手金は振り込んである。
北山さんはこの案件も失敗しないと言い切ってくれた。



彼との契約では、別れさせられなけば…
着手金は全額返金するとまで結んでいる。
絶対の自信がある、という事だ。



ガヤさんは、北山さんに惹かれている。
昼間に見た光景がその事を証明していた。


でも、玉さんは…？
ガヤさんを探す玉さんの表情は必死で、余裕がなくて…


傷ついた表情(かお)をしていた。
その表情(かお)を見ると、ぞくぞくもした。


でも、罪悪感もある



自分が辛いからって自分の事しか考えられない奴になっていた。
好きな人の幸せを壊そうとしている自分は人間以下なのでは、とさえ…



それでも、間近で好きな人が他の人を愛する所を見る事も耐えられない。



弱い自分が嫌になる。



あの時壁一枚隔てるのみで、恋人が他の人を求めてるかもしれない事



それを教えたくもなった。
苦痛で歪む玉さんの表情を見たい、と。
増悪の心が顔を出す。



こんな自分を知らなかった。



(歪んでんな──…)



愛する人の苦しい姿を見たいと思ってしまうなんて──…




椅子の背もたれに、ぎゅっと背筋を伸ばすように凭れかかった。


身体をしっかり固定してくれるホールド感のある背もたれ。



この椅子は、仕事をする時だけでなく、一人で書斎でゲームをする時も使っている。



姿勢を選ばず好みの位置に調整できる可動式アームレストに背もたれの角度調整もでき、長時間のゲームプレイやパソコン作業に疲れた時、リクライニングにして一休みできるモノだった。



腕と背筋をぐっと伸ばしていると、聴こえたインターホンが鳴る音。


こんな真夜中、誰かと思いモニターまで確認しにいくと、そこには玉さんが映っていた。



今にも泣きそうな、苦しそうな顔。



ああ、その表情(かお)───…



もっと、もっと…


魅せて欲しい。
こんな真夜中にゲームをしたいと下手な嘘をつく君。



「俺もちょうどしてた所だよ」



そっと鍵を開けた。

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