今夜君が欲しい【前編】

9 M ページ9

頬の筋肉が張った。
凄く、疲れた。


肩がぐっと下がる。
緊張で自然と上がってしまっていたのかもしれない。



玉さんに逢いたくて、届けにくるのも限界かも。



好き過ぎて、嫉妬をして醜くなる自分が嫌で、玉さんに逢うことさえ、怖くなる。



「じゃあ、届けたから俺は戻るね」
「宮、ありがとっ」



椅子から立ち上がり、小さなミーティングルームから出ようと背中を向けドアまで向かうと、ガヤさんの可愛らしい明るい声が聞こえてきて、思わず振り返る。



そして、自分の瞳に映ってしまった。
こっちを見て笑いかけるガヤさんの紳士的な整った顔と、見ないようにしていた玉さんの瞳の奥が。



出ていく俺には見向きもせず、優しい瞳で目の前のガヤさんを見つめ映してる瞳。



2年ほど我慢できていた感情が抑えきれなくなった瞬間だった。



恋は盲目だと言う。
付き合いたての頃より、時が経った現在の方が玉さんは一目瞭然でガヤさんを好きになっていた。



玉さんの熱は下がることなく、ガヤさんに向き続けている。



浅くなるばかりか、深くなる一方。



二人が付き合いたての頃より、今の方が辛くなっていた。



ガヤさんは見せないようにしているけど、
玉さんが露骨になってきている。
ガヤさんに対する愛を隠そうともしない。
なんだかんだガヤさんも嬉しそうにする。




その瞳に俺を映して欲しい、
そう強く思ってしまった。



アニメのように突然の出会いでも、相手は美少女でもない。



なのに、彼は日々俺を苦しめる。



「んーん、二人も頑張ってねっ！」



手を振って、また背を向けた。



ドアを閉め、内ポケットからスマホを取り出し、背を預けながら感情のままに登録済みのメアドを選択する。




『抜け出したい』



そんな風に思ってしまった。
指先で送る相手は、素性も知らない相手。
だけど、この人に自分の幸せを委ねる形になる。


自らの手で、好きな人の手も掴めないこの手は
一体何のためにあるのだろう。



───メールを送信しました。



その画面を確認すると、スマホを胸ポケットの所へとしまい、手のひらを握りしめた。



別れさせ屋、
本当にあの二人を別れさせる事など
出来るのだろうか


疑心暗鬼な想いは宙を舞っていた。



廊下にはガッツポーズをしながら偽物の笑顔で写っている自分のポスターが何枚も貼られていた。



"宮田、俺…ガヤと付き合うことになった"



泣きそうに告げた君の顔は、脳裏にずっと残っている。

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