今夜君が欲しい【前編】

46 M ページ46

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「玉さん、お酒飲む？」
「んー、ガヤにバレるの嫌だから止めとくわ。お茶ちょーだい」
「承知しました〜」


玉さんはゲームに夢中だった。
まだ打ち合わせをしていたガヤさんと北山さんを置いて、玉さんは上がったらしい。
10時には帰る、と来た早々俺に告げた。


ガヤさんが終わるのがそれぐらいなんだろう。
玉さんの世界の中心はいつもガヤさんだ。


どれだけ悔しい思いを噛み殺してきたか数えきれない。今だってそうだ。



飲み物の事を聞いても、玉さんはこちらに顔さえ上げない。ガヤさんにもそうなの？それは愚問だった。そんな筈がない。



ガヤさんの言葉には耳だけでなく、目もきちんと向けるんだろう。


俺と玉さんの関係性。これが俺のポジションだった。玉さんに気を遣わなせない、素のままの君でいて欲しい、それは俺が望んでる事だ。



北山さんに言われてる『癒し』も忘れず提供しなければ、俺の存在なんて玉さんにとって何も意味の為さないものな気がした。



虚しくならないと言ったら嘘になる。
この関係性を打破するために、北山さんに依頼したんだ。


北山さんは、メールで、依頼主の自分の事を気にかけてくれてアドバイスもくれる。俺の事を褒めてくれる。辛かったな、って労ってくれる。



それで救われた。



ポケットから取り出すと、それをお茶の中に落とし、溶けるまで掻き混ぜた。
北山さんに渡された錠剤だった。



時刻は8時。
食堂で夕飯は互いに済ませていた。



「はーい。乾燥してるでしょ。どーぞ」
「ありがと。この部屋快適だわ。湿度がいい感じ」



アナウンサーは喉が商売道具だから、風邪などひいてられない。
加湿器を何個も設置し、湿度は快適な状態で保っていた。


レザーのソファーに背中を預け凭れかかる玉さん。
腕は横の肘置きに寄り掛かりながら操作していた。



取りやすい場所にそのマグカップを置く。
その取っ手に指を通すのをじっと見つめてしまう。



早く飲んで欲しい。
ごくりと自分の喉仏が唾を飲み上下したのが分かる。



「宮田？」

「はっ、へ？」

「なーにぼーっとしてんだよ。やろうよ、ほら」



玉さんはソファーに置いてあったポータブル機器を渡し微笑んでくれた。
その笑顔が好きだ。緩く笑うふわふわの玉さんが。
玉が、裕太が。



「うん！」


その笑顔にどす黒い嫉妬心も疲れも癒されていく。
癒されてるのは、俺の方だ。
観葉植物から発せられるマイナスイオンが玉さんから出てるかの様に。

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