今夜君が欲しい【前編】

17 T ページ17

「では、お先に失礼します」


咥えていた煙草を指先で掴み灰皿に押し付けて消した彼はそう言い残し、先にこの喫煙所を出て行った。



扱いにくそう、そんなイメージを残して。
ガヤは何も愚痴をこぼしたりしないけど、あんな人の教育係を押し付けられて大変だったのかもしれない。


ふと、禁欲生活を頑張ってみようかと思った。
ガヤの負担にはなりたくない。


自分も吸い終え、戻ると
丁度、ガヤがさっきの北山さんに説教をしていたのが目に入る。出入りするドアの所で。


ガミガミ説伏せるガヤを北山さんはさっきは見せなかった様な笑顔で宥めていた。


どうやら、勝手に抜け出したらしい。
溜息を吐き肩を落とすガヤの肩をぽんっと叩いたのは北山さんだった。


信じられなかった。
上下関係を重んじるガヤが、そんな生意気な態度をたった数週間で許していることを。



俺だって恋人になるでは、敬語を崩すことは出来なかった。



「わりい。今度は藤ヶ谷も誘うからさ」
「あー！もう！全然反省してねえじゃん！」



職務中にも関わらず、ガヤも言葉を崩していた。
不思議過ぎるこの光景に、モヤモヤしない訳もなく、無意識に舌打ちをしてしまっていた。



ガヤたちには聞こえない距離にいた筈なのに。
その舌打ちがまるで聞こえたかのように、北山さんは振り返ると流し目で、こっちを見て嘲笑った。




何だ、今の。
背筋がそれを見た瞬間、ゾゾっと凍てついた気がした。



あいつは危ない。瞬時にそう思った。
でも、そんなあいつにガヤは次の瞬間、何の疑いもないような屈託のない笑顔を向けていた。



…あいつが何か言ったのだろうか。



部長の愛人で、ガヤにとっても要注意人物かもしれない。
ふとそんな風に思った。


ガヤは壁を越えると、有り得ない程の可愛さを放つから心配だ。



「たーまさんっ！」
「……宮田っ？！」



急に背後からひょこっと出てきた宮田に驚き肩がビクッと揺れてしまった。


「どーしたの？こんな所で棒立ちして」
「……宮田こそ」
「俺は、コレを届けに」


ひょいっと見せたものは、ゲームだった。
俺が今始めようか迷っていたもの。



「……っ！」
「楽しかったから、玉さんとやりたいなーって玉さんの分も買っちゃった！」



何で、迷っていたか。
それは、ハマってしまうと他の事が手につかなくなり、恋人の存在までもを放置してしまうからだ。
拗ねてしまうガヤに止められていた。





それでも、手はそれを受け取ってしまった。

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