今夜君が欲しい【前編】

20 K ページ20

あわあわしてる藤ヶ谷が可愛い。
文句を言ってくるくせに、復旧させた御礼を言ってくる藤ヶ谷の発する言葉は矛盾している。



でも、そんな藤ヶ谷が可愛いと思った。
思わず、堪えきれず吹き出しながら笑うと、藤ヶ谷はまた怒った。



「いーじゃん。頬っぺにチューぐらい。企画書をやり直す事に比べたら、安い対価だろ？」
「……北山ってチャラいよね。別に安くねえし！」
「なに？恋人が怒るとでも？」
「………」
「何、図星？馬鹿だな。藤ヶ谷は。バレなきゃシテないのと同じなの」
「………」
「簡単だろ。藤ヶ谷が言わなきゃいいだけだから」
「……チャラい人の価値観を押し付けないでくださいー！」



子どもの様に、食い付いてくる藤ヶ谷。
可愛い。耳なんて真っ赤で。
頬にキスをしただけなのに。


唇にシテたら、もしかしたら倒れてたんじゃねえの？
慌ててる藤ヶ谷を見るのは楽しかった。



「折角なら、唇にシテ欲しかった？」
「〜〜〜〜っ、もう先行くから！」



藤ヶ谷を見上げて上目遣いで揶揄えば、もっと朱く染める藤ヶ谷。耳だけじゃなく、首までも。
黒い肌が朱く色付く。
パソコンと乱雑に散らばっていた書類たちを纏めるとそのまませっせと部屋を出て行った。



最後に、扉にデコをぶつけて。
いってえ…と呟いた後、扉を開け睨みつけながら出て行った。



何あいつ王道のアニメみたいな事してんの。



「くくくっ」



自然と零れる笑みを奥歯を噛み締め我慢した。
可愛い、藤ヶ谷の印象が日々変わっていく。



柔らかくハリがあった頬に触れた自分の唇を中指で触れる。藤ヶ谷はいい香りがする。
自分の心の中がその香りを感じるだけで少し温かくなっていく気がした。



リミットまで、後2ヶ月と半分。




瞼を閉じて、シナリオを浮かべる。




依頼人には、玉森に近付くように伝えてある。
出来るだけ玉森と時間を共有するよう指示をしていた。


俺が標的(ターゲット)との時間を共有し
依頼人が玉森との共有する時間を増やす。



思ってた以上に、玉森は藤ヶ谷が好きだ。
藤ヶ谷が玉森を想う気持ちも偽りはなく愛してるとは思うが、玉森のベクトルの方が大きい。



それにあいつは若い癖に隙があまりない。
宮田情報によると二人は同棲をしているようだし。



二人が纏う雰囲気はマンネリなんて微塵も感じさせられない。


今回は少し、難しいかもしれない。
でも、大丈夫。



俺に落とせない奴はいないのだから。

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