黒い羽 ページ38
．
残り少ない花びらが、大ぶりの桜の枝から落ちていく。
抱えていたお気に入りの本を枕元に置くと、病室のベッドの上から起き上がり小さな手を必死に伸ばして窓を開けた。
少しだけ冷たい風が顔をさらう。
もうずっと学校にも行ってない。
初めの頃は友達もよくお見舞いに来てくれた。
だけど最近では先生が持ってきてくれる手紙だけ…。
クラス替えで新しい友達と新しい生活が始まっている。
もう私の居場所なんかないのかもしれない。
もう涙も出でこないんだ。
長い入院生活の中で、次々にいなくなっていく友達。
その家族の悲痛な表情を何度も目の当たりにしていくうちに、泣き方まで忘れてしまったんだと思う。
私はどうせ助からない。
この病院から元気に退院していった子なんて、私の知る限り…一人もいないのだから…。
凛と立つ桜の木を眺めて、そっと話しかける。
『今年もありがとう…。でも、来年は…きっと会えないよね…』
ベッドの脇においてあるパイプ椅子に目をやる。
突発的にそうしようと思った訳じゃない。
ずっとずっと苦しかった。
もうじゅうぶんだよね。
辛い検査に耐えても、結局は命も順番待ちなんだし。
お母さんもお父さんも、まだ小さい弟だって、こんなポンコツな家族がいたら迷惑なんだから。
窓の下に引きずった椅子の上に立ち上がると、いつもは見えない道路と植え込みが視界に入った。
背筋がヒヤッとして足が震える。
ここから落ちたらバラバラになるのかな。
すぐに死ねなかったら痛いのかな。
…きっと…お母さんはたくさん泣くんだろう。
私がどんなわがままを言って当たり散らしてもいつだって笑顔で励ましてくれた。
一つこの世に心残りな事があるとしたら…。
それは…。
お母さんを本当の笑顔にしてあげられなかった事だ。
目を閉じてすうっと息を吸うと、体の周りにまとわり付く様に生暖かい風が吹いた。
『何…これ』
見開いた瞳に映る黒い花びら。
目を凝らしてよく見れば、それが黒い羽だということに気づく。
『…カラス？』
目線を桜に戻した瞬間、太い枝に座った、男の存在を確認した。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 601人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちたゆ(プロフ) - アン様ご無沙汰しております(*^^*)続編の方なのですが書き留めていたかなりのページ数が消えてしまい意気消沈しておりました…。励みになるお言葉ありがとうございます(*^^*)頑張ろう…またのぞいてみて下さい！ (2018年10月1日 21時) (
レス) id: 5fbd8900a9 (このIDを非表示/違反報告)
アン(プロフ) - 久々来ちゃった( *´艸｀)やっぱ、吸血鬼さん大好きやわ〜〜♪( ´▽｀) (2018年9月30日 23時) (レス) id: 64b2d92415 (このIDを非表示/違反報告)
もちたゆ(プロフ) - ひろ様、コメントありがとうございます(*^^*)なかなか物語を進められず申し訳ございませんm(__)m必ず完結させますので、どうか最後までお付き合い下さい(*´ω｀*)とても励みになりました。ありがとうございます！ (2017年5月16日 22時) (レス) id: 5fbd8900a9 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - こんばんは、はじめまして。続きが気になって一気に読みたいのですがそうもいかず、ヒマを見つけては読ませて頂いてます。挨拶は最新ページまで読んでからと思っていたのですが、もう少し時間がかかりそうなので...どうなるの？吸血鬼の正体を想像しながら読んでます。 (2017年5月16日 20時) (レス) id: cbdd06dc5c (このIDを非表示/違反報告)
もちたゆ(プロフ) - 聖也様、コメントありがとうございます(*^^*)容姿完璧な主人公に対抗するには、内面の美しい良い子でなければいけないと思いました〜。でも少し可哀想だったでしょうか…( ´-｀)是非最後までご覧になってみて下さい。よろしくお願い致します(*^^*) (2017年5月5日 22時) (レス) id: 5fbd8900a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちたゆ | 作成日時：2017年3月9日 18時
