▽ ページ27
．
You side
．
今日はものの二時間で張り込みの成果を得た。
極たまにこんな日もあるけど、殆どが徹夜になったり予定を数日オーバーする事が多い。
今日はラッキーだ。
運転席の臣さんが、ボードの上でペンを走らせている。見とれる程のきれいな横顔に息をのんだ。
『何だよ。』
…あれ、見てるのバレた？
『黙ってればいい男だと思って。』
あたしの言葉に手を止めた臣さんと視線が重なる。
『お前も黙ってりゃいい女だ。』
クッと笑うとあたしの肩を抱いた。
え？！
『ち、近いっ。』
泳いでいるあたしの目を見ると吹き出して笑う。
『さっき、隆二ともこんな距離感だったろ？』
さっき？
『そうだった？わかんない。』
そう言うとまじまじとあたしを見て満足そうに微笑んだ。
『悪くない』
『へ？』
『違うって事だろ？』
意味が分からないあたしの頭をポンと撫でた。
『飯でも食うか』
何だか…今日の臣さんは温かい。
いつもだけど…今日は特別そう感じていた。
．
車を走らせ繁華街を抜ける。
渋滞を避ける様に入った路地に黒い人影が見えた。
どうしてこんなに気になったのか、自分でも分からない。
だけど視線をそらす事が出来なかった。
徐行する車の脇を通り過ぎる深くフードを被った男…。
一瞬、視線が交わる…。
…腐った魚のような…目…。
…あ…。
体中の血が逆流する感覚と酷い嫌悪感。
胸が苦しく息が上がる。
異変を察知した臣さんが急ブレーキをかけた。
『A！どうした？！』
『臣さ……く、苦しい…』
冷たい汗が額を伝う。
体が震えて止まらない。
肩を抱いた腕を離し、急いでビニール袋をあたしの口元にあてた。
『A、ゆっくり息を吸ってはけ！』
ビニール袋が収縮を繰り返していくと少しずつ呼吸が楽になっていく。
時間をかけて冷静さを取り戻していった。
『…もう大丈夫だ…』
『…ごめん…なさい』
『バカ…謝んな。Aは何も悪くない』
…ああ。
いつも冷静な臣さんの声が震えている…。
もう我慢する事が出来ない。
ずっと泣くことだけを拒んで生きてきたあたしの頬に止めどない涙が溢れていく。
暗い闇があたしと臣さんを静かにのみ込んでいった。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 601人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちたゆ(プロフ) - アン様ご無沙汰しております(*^^*)続編の方なのですが書き留めていたかなりのページ数が消えてしまい意気消沈しておりました…。励みになるお言葉ありがとうございます(*^^*)頑張ろう…またのぞいてみて下さい！ (2018年10月1日 21時) (
レス) id: 5fbd8900a9 (このIDを非表示/違反報告)
アン(プロフ) - 久々来ちゃった( *´艸｀)やっぱ、吸血鬼さん大好きやわ〜〜♪( ´▽｀) (2018年9月30日 23時) (レス) id: 64b2d92415 (このIDを非表示/違反報告)
もちたゆ(プロフ) - ひろ様、コメントありがとうございます(*^^*)なかなか物語を進められず申し訳ございませんm(__)m必ず完結させますので、どうか最後までお付き合い下さい(*´ω｀*)とても励みになりました。ありがとうございます！ (2017年5月16日 22時) (レス) id: 5fbd8900a9 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - こんばんは、はじめまして。続きが気になって一気に読みたいのですがそうもいかず、ヒマを見つけては読ませて頂いてます。挨拶は最新ページまで読んでからと思っていたのですが、もう少し時間がかかりそうなので...どうなるの？吸血鬼の正体を想像しながら読んでます。 (2017年5月16日 20時) (レス) id: cbdd06dc5c (このIDを非表示/違反報告)
もちたゆ(プロフ) - 聖也様、コメントありがとうございます(*^^*)容姿完璧な主人公に対抗するには、内面の美しい良い子でなければいけないと思いました〜。でも少し可哀想だったでしょうか…( ´-｀)是非最後までご覧になってみて下さい。よろしくお願い致します(*^^*) (2017年5月5日 22時) (レス) id: 5fbd8900a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちたゆ | 作成日時：2017年3月9日 18時
