最低な日々に｜wtnb (ページ5)

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『おはようございます』

いつも通り執務室のドアを開けた。

席に座ろうとしたところで、福良さんと話を終えたばかりの伊沢さんが私の方へ寄って来た。

「どうした？」

『え？』

「なんか、元気なさそうだったから」

『いつも通りですよ』

「…正直に言っていいよ」

伊沢さんは距離を狭めて小声で言う。

私は思わず耳に手を当てた。

みんなの会話やタイピング音が遠くなり、昨晩のあの声と耳鳴りが戻ってきて吐き気がした。

執務室にいた、こうちゃんや河村さんからの目線を感じ、思わず後ずさりしてドアに背をつけた。

いつの間にか目の前を濁す涙を拭う余裕もなく、震える手をドアノブにかけた。

『ごめんなさ…わたし…今日…』

そう言ってドアを開け、元来た廊下を走り、急いで外へ駆け出した。

家には彼がいるから帰れない。

居場所はもうどこにもない。

逃げたい、こんな所もう居たくない。

その一心が原動力だった。

誰もいない朝の公園の遊具の中へ、隠れるように逃げ込んだ。

膝を抱いて縮こまり、静まり返る公園の中で私の泣き声が小さく響いた。

たったったったっ、と誰かが歩いてくる足音が聞こえ急いで両手で口を塞いだ。

「はぁ、はぁ……Aさん？」

その声の主はこうちゃんだ。

「Aさ～ん」

「…見間違いかな」

こうちゃんが言葉を発した矢先、スマホのバイブレーションが鳴った。

「Aさん、いるんですか？」

画面には彼の名前が表示されていた。

心拍数はどんどん上がり、
呼吸はどんどん早くなる。

誰か、助けて。

「Aさん！良かったぁ…いなくなったらどうしようかと…」

遊具の入口で、少し屈みながらため息をつくこうちゃんの元へ私は走った。

私はその胸元に顔を埋め、むせび泣いた。