最低な日々に｜wtnb (ページ3)

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そんなある日、会社の帰り際に伊沢さんに手首を掴まれた。

いつもの癖で、思わず肩をすくめてしまう。

「あ、あぁ…ごめん……あのさ、今から飲み行かない？」

『今から…ですか？』

これが“秘密の共有”の始まりだった。

「あのさ、Aって彼氏いるじゃん？」

そう切り出されたのは、都内にある、雰囲気の良いバーでのことだった。

『…はい』

「その彼氏って、Aに……手を出したりしてない？」

私は唖然とした。

「あぁ、違ったら、ごめん。」

少し躊躇ったあと、私は

『いや、合ってます……』

小さく呟くようにそう言った。

『でもなんで…気付いたんですか？』

「この前、腕の煙草の火傷跡偶然見ちゃってさ。大学の時、そんなのあったかなって思って」

『……みんなには内緒にしててくださいね、この事。無駄に心配かけちゃうかもしれないから…』

「……いいのかよ」

『なにがですか？』

「Aを大事に思ってくれてる人だって…いるのにさ。」

私はただ目を丸くするしかできなかった。考える間もなく、伊沢さんは次の言葉を発した。

「あと、いつでも相談して、その事。いざとなったら何か出来ることがあるかもしれないし。」

『はい、頼もしいです。』

私はその時漸(ようや)く、独りではなかったことに気がついた。