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二話 ページ3

『助けてくれて、ありがとうございます。』

『私の名前は、A。』

あえて、苗字は名乗らない。

旦那様との宝物を、他の人に教えてなんてあげないもん。

『今、まいごなんです。』

そう言うと、彼は心配そうに私を見つめたあと、

「そっか!!じゃあ、俺と一緒に来てよ!!!!!」

そう言って笑った。

太陽のような笑顔。

それは確かに、私とは住む世界が違うのだと感じさせられた。

『じゃあ、よろしくお願いします。』

そう言ったものの、これからどうなるのか。

考えただけで気が遠くなりそうだった。



はじめは、なんて可愛い女の子何だろうって思ったんだ。

次の仕事に嫌々向かっていると、物凄く憔悴しきったような、悲しい音が聞こえてきた。

耳を済ませれば、それは丁度街の方向。

なんだか気になって、俺はその方向へと走り出した。

音の主にたどり着いた時、一瞬見とれた。

桜色の柔らかそうなふわふわの髪の毛。

雪みたいに白い肌。

ちょっとぽてっとした唇は、さくらんぼみたいに艶々で……。

彼女の体が傾いた瞬間、俺の体は考えるより先に動いていた。

「えっ?ちょっと、大丈夫?!」

倒れた彼女の体を抱きとめる。

彼女の体は、小さくて、細くて、ちょっと力を込めたら折れてしまいそうだった。

閉じられたそのまぶたを、そっと覗き込む。

その時、

『……ん、』

彼女の目が、ゆっくりと開いた。

キラキラと桃色に輝くその瞳に、俺は囚われたようだった。

『だれ?』

彼女の言葉に、はっと気を取り戻す。

そして、安心させるように小さく笑って、

「良かったァァァァァァ!!起きたんだね!!!俺は我妻善逸!!!!!結婚しよう!!!!!!」

耐えられずに言葉が飛び出した。



『助けてくれて、ありがとうございます。』

『私の名前は、A。』

俺に向き直って、Aちゃんはそう言った。

苗字は言わなかった。いや、もしかして言えなかった?

『今、まいごなんです。』

困ったような、泣きだしそうな表情でAちゃんは笑う。

多分そうだと思うけれど、 Aちゃんは、捨てられたのではないだろうか。

だから、苗字は言えないし、帰る場所も、無い。

このまま見捨てることなんて、俺には出来なかった。

「そっか!!じゃあ、俺と一緒に来てよ!!!!!」

勢いのままそう言って、笑う。

Aちゃんは、一瞬固まる。そして、

『じゃあ、よろしくお願いします。』

花のような笑顔に、俺はまたも心を奪われた。

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あす(プロフ) - 夏風邪が早く治るといいですね(*^^*) 続きいつも楽しみにしています。 これからも頑張って下さい!!!! (2019年7月18日 0時) (レス) id: ca71b1eaaf (このIDを非表示/違反報告)
meika(プロフ) - ウッ(心肺停止)、、、なにこれ夢主ちゃん可愛いぃぃい!! (2019年7月10日 18時) (レス) id: 2daad6deba (このIDを非表示/違反報告)
A i - 読んでみて凄い良かったです! (2019年7月6日 22時) (レス) id: 7938bbdbeb (このIDを非表示/違反報告)
布袋尊(プロフ) - 続きがみたいィィィィィイ (2019年7月6日 17時) (レス) id: 4e763fa650 (このIDを非表示/違反報告)
ひな - 面白いですうううう(><) (2019年7月6日 14時) (レス) id: 162618ebf0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾辻桃瀬 | 作成日時:2019年6月30日 13時

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