＊ ページ12
見上げた空は青い。
何もかも、どうでもいいやと思った。
『いいよ、行ってあげる』
膨らんだ空を仰いで言った。
もうどうとでもなれと投げ遣りに答えたけれど、視線を戻せば大我は満足そうに笑っていた。
「ありがとう、A」
吹いた風は、気持ち悪いくらいに生ぬるくてほてった体を冷ましてはくれない。
それなのに、大我のまわりの空気だけは、なぜだか晴れた冬の日のように透明で涼やかに感じた。
『大我』
初めて口にした名前。
慣れない響きなのに、不思議と心地よくくちびるになじむ。
「何？」
『大我って、やっぱり幽霊なの？』
聞くと、大我は
「はあ？」
と声を上げ、それから大声で笑い出した。
「幽霊って、なんだよそれ。そう言えばさっきもそれっぽいこと言ってたな」
『だってこんなに暑いのにカーデまで着て汗ひとつ流してないし、手だって、すごく冷たいし』
もごもごと口の中で呟くと、大我はゆっくりと息を吐き、笑顔は残したままでわたしを見た。
「まあなあ、確かにおかしいだろうけど。でも、一応生きてるから安心しろ」
『そうだよね。ごめん、変なこと言って』
「別にいいけど。でも、幽霊だなんて言われたのは初めてだ」
また声を上げて笑う大我に、恥ずかしくなって目を伏せて、代わりにつながった手のひら同士を眺めた。
大我の手のひらはわたしより大きいけれど、少し日に焼けた程度のわたしの肌よりずっと白くて、それから驚くほど冷たい。
表面だけじゃなく中のほうまで温度がまるでないみたいに冷え切っている。
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作者名：cielo | 作成日時：2023年10月6日 2時
