◆マネゴト。ー7 ページ19
出来る限り心を落ち着けようと、目を閉じて、肌に触れるぬくもりだけを感じる。
今なら、今だけならば、このぬくもりに身を委ねても構わないと思えた。
「分かった…いいよ、吸って」
最後に一度目を開ける。いつだって信じている弟の瞳がそこにはあって、この瞳が見つめてくれるなら、これが間違ったことだとしてもいいと思えた。
ーいっしょに、底知れない闇の中へと、堕ちてしまっても。
きつく抑えられていた手首の上を滑るようにして、指を絡め合う。次第にレイヤの顔が近づいてきて、サーヤは目を伏せた。レイヤはサーヤの肩に顔をうずめると、襟元をずらし、はだけた首筋をぺろり、と舐める。
「…っ」
思わずぞくっとしてしまい、恐怖を悟られまいと握る手により一層力を込めた。
「ごめん、サーヤ…ちょっと痛いかも」
そう言って軽く首筋を噛まれた。悪魔を察知したときとは別の痛みが首筋に走る。
「ん…っ」
体全体に力を入れて耐えていると、ふとどことなく慣れた風のレイヤの手付きが気になった。
(もしかして、レイヤくんは魔界に居たときにもこうやって誰かの精気を吸っていたのかな…?)
そんな訳ないよね、と縋る気持ちも込めて否定するが、ありえなくもない。そもそも向こうには人間がいなかったのだから。周りの者は皆、精気を吸って生きていたのだろう。その中でレイヤだけが精気を吸わずにいたとも、考えられなかった。
(あとで、聞けたら…いいな)
次第に意識が朦朧としていく。耳元で弟の息遣いと血が啜られる音を聞きながら、サーヤは意識を手放した。
「…ヤ…サーヤ」
レイヤの呼び声で目を覚ます。束の間気を失っていたらしく、瞼を開くと目の前の、顔をくしゃくしゃにして泣きそうな少年が映った。それがとても儚く、そのうち消えてしまいそうで、こらえきれなくなってサーヤは手を伸ばした。
「だい、じょうぶ…だから」
本当は、肩で呼吸をしているほどしんどくて、全然平気でない。
けれど、それよりもレイヤに悪魔と同じことをさせてしまったことのほうが辛かった。目の前の少年が、さっきまでとはどこか遠く離れた気がしてしまう。
自分が不甲斐ないおかげで、嫌なことを弟に押し付けてしまったこと。本来ならば、姉である自分も一緒に背負わなくてはならないのにー。
それが何よりも苦しくて、せめてもの虚勢を張ろうと、無理して微笑んだ。息も絶え絶えになりながら、サーヤはか細い声で言う。
「…レイヤ、くん。わたしも、吸っていい…?」
悪夢は、続く。
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桃(プロフ) - ゆうたんさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。更新頑張ります! (2016年7月28日 21時) (レス) id: 5aa2eaac6e (このIDを非表示/違反報告)
ゆうたん - とってもおもしろいです!再新頑張ってください(^▽^)/ (2016年7月26日 13時) (レス) id: 9ccd65c474 (このIDを非表示/違反報告)
桃(プロフ) - チカさん» ありがとうございます!21巻は読んでていろいろと大変でした…。更新頑張ります〜( ´ ▽ ` ) (2016年6月21日 20時) (レス) id: 5aa2eaac6e (このIDを非表示/違反報告)
チカ(プロフ) - 高校合格おめでとうございます。21巻は確かにヤバかったですね!ゆっくりでも良いので更新頑張ってください(*^^*)応援してます! (2016年6月21日 6時) (レス) id: b0a8b8ef26 (このIDを非表示/違反報告)
桃(プロフ) - ゆうさん» 返信遅くなりすみません。コメントありがとうございます!読みやすさは個人的にはまだまだですが、そう言っていただけると有り難いです(o^^o)黎紗好きさん!!!周りにいないので本当に嬉しいです( ; ; )ふたりいいですよね…!続きの執筆頑張ります! (2015年5月24日 12時) (レス) id: 5a1aaa4d08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桃 | 作成日時:2015年4月27日 0時