Cigarette smoke (ページ13)

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「もう悔いても時間は戻ってこないんで、運がなかっただけですよ」

彼の言葉がずしんと胸に引っかかり続けていた。

彼らの運の悪さなのか。

私というハズレくじを引いてネタをしたから負けただけ。

そう言われた気がして悔しかった。

でも悔しいなんて私が使っていい言葉ではない。

なぜなら自分の欲のために仕事をして周りにいる芸人さんたちのことなんか何一つ気にしていなかった。

思えば真美は自分と同い年ぐらいの芸人さんたちと仲良くなっていたけど

私は芸人さんたちと一切交流なんてせず仕事の話のみするだけのスタッフだった。

本来なら芸人さんという表の人たちを理解して輝かせるために動くのがスタッフなのに。

廊下でぼーっと考え事をしていたら遠くの方から慌ててやってくる影が見えた。

「A！」

「真美...」

「大丈夫...？」

「今の私ってさ、芸人さんからみたら一生関わりたくないやつだよね、笑」

「....」

「こんなやつが東京の劇場で働けるわけないじゃんねー」

「....ぐちぐち言うてたってしょうがないじゃん」

私が聞いたことない静かな声で真美が喋り始めたから驚いて振り返ると

怒っているんだなというのが伝わる目で私のことを見ていた。

「もう時間は戻せないなら今から挽回するしかないでしょ」

「...そうだね、私が間違ってたわ」

そう言うとニヤッと笑った真美が

「まあ、いつでも愚痴ぐらいは聞くからさ、笑」

なんて言ってくれるから私はとりあえず目の前にいる人たちのために働くことにした。

今まで知らなかった芸人さんに自分から声をかけて話すようになったし

出社ギリギリの時間に来てたけど早めに来てできる準備は時間が許す限りやったり

逆に残れる時間があれば終電まで仕事をするようにもなった。

「Aちゃん」

「あっ、お疲れ様です...濱家さん？」

「なんで質問系なん？笑まああってるけど」

それからしばらくして濱家さんは私によく絡んでくれるようになった。

「すいません」

「いや、全然ええよ。あっそうやリリー！」

だから濱家さんの同期の川西さんや河井さんといった方々とも交流するようになったけど

「はい」

「こいつ見取り図のリリー言うねんけど...この人は俺らと同じくらいから働いてる

　劇場スタッフのAちゃん」

「初めまして、見取り図のリリーです」

「よろしくお願いします」

これが見取り図と初めて話したタイミングだったかもしれない。