ファシネイティングワールド - 1 - 【完】 (ページ36)

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別に強がってる訳でも、虚勢を張ってる訳でもない。

私はいたって冷静だ。

私とはなんの関係もないこの男が、本当に私を助けてくれるなんて思ってないだけだ。

ぺろり。カサカサに乾いた唇を舌で舐めれば血の味がした。口端を切ったんだろう。

今度は指先でそっとそれを拭えば、当たり前のように血が付着した。

……赤い。

相沢謙吾の乗っているバイクと同じように。
相沢謙吾が被せてくれたパーカーのように、真っ赤。

「……ふーん」

つまらないと言いたげに、相沢謙吾は吸っていたタバコを地面に落とし足で踏み潰した。

火が消える。

なのにゆらゆらと浮かぶ煙は宙を漂ったまま。

「―――――オガの犬が！いい気になんなよ！！」

……憎悪と嫌悪を孕めた怒声が聞こえたのは、その時だったと思う。

どっからともなく響いた力強い声色とは裏腹に、その声は遠い。

視線だけを彷徨かせ声の主を探したが、閑散とした道路が広がるだけ。

「………黙って帰ればいいのに。最後の最後で遠吠えかよ～」

アハハ、と。姿なき人に乾いた笑みを浮かべる相沢謙吾。……やっぱり、全然可愛くない。トイレで見た彼は幻だったのだろうか。

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