ファシネイティングワールド - 1 - 【完】 (ページ35)

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ドクンッと跳ね上がった心臓。

男は私を黙視したままタバコを口にくわえ、ジッポで火を灯す。

ゆらゆら。ゆらゆら。

風に揺られる灯火に、私の中の“何か”が疼いた。

「助けて欲しい？」

男がタバコの先端に火をつけ、副流煙を吐き出しながら言葉を落とす。

静かになった夜の世界にその音はなんの妨げもなく私の所まで到達した。

「ぇ…？」

「助けて欲しい？」

「……」

男が……ううん。相沢謙吾が私を見つめる。いや、睨み付けてるといった表現が正しいだろう。

それはつまり……私に聞いてるという事で。

「あ、いや、ケンさんこれは……この女が…」

なのに私の髪から手を離し、慌てて相沢謙吾に反応するのは先輩だった。

星が雲に覆われる。

あんなに綺麗に輝いていた星は、私を導くどころか逃げるようにその身を隠した。

“助けて欲しい？”

それは、以前にも聞かれた言葉で―――…

「助けて……」

「ん？」

「欲しく……ない…です」

私が返す言葉も、また同じ。

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