マンションの住民転生者【企画小説】 (ページ23)

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第弐拾弐話　[柴村仁:車窓から] ページ23

ぼろ雑巾の様に流されること暫く。

今度は有ちゃんに引き揚げられた様だ。

服もびしょびしょで、寒気が体を襲う。

ケータイが水没してしまったらしい有ちゃんに自分のを貸した。

申し訳ない。

誰かと一通り話し終えたらしい有ちゃん。

「…ごめん。ケータイ、弁償する。」

頭を下げてそういうと、有ちゃんは大分慌てていた。

「否っ、弁償だなんてそんないいって…。買い換えるところだったし！それより顔あげてっ!?あっ、顔はあげちゃダメ！」

「お金ならある。」

服だって買わないし。と付け加える。

そう、同じのを二着着回してるだけだし。

「いいって！別に！」

「大人しく弁償されて….。…能力使われたい？」

尚も断り続ける有ちゃんにちょろっと脅しをかけると、了承してくれた。

明日買いにいくと約束。

最初からそうしてればいいのに。

有ちゃんはこのあとマンションに帰るらしい。

私も帰ろう。

ブラウスが体に張り付いて気持ち悪いから、車にのせてもらった。

「ホント無事でよかったよー。もう止めてよね、入水。柴村ちゃん死んじゃったら嫌だよ！」

「……それは約束出来ない」

ため息をつきながら運転する有ちゃんをじっと見る。

いいな、運転。西尾さんに教えてもらおう。

川沿いを走る間、じーっと外を眺める。

「……あ」

河原を指差す。

「どうしたのー？」

有ちゃんがちらっとこっちを見た。

「………太宰さん！」

それだけ言うと理解してくれた様だ。

「風邪引くからちょっとだけだよ？」

「わかった！」

ばーっと土手をかけ降りて大好きな彼に抱きつく。

「太宰さん！」

回りには沢山警官が居たけど、気にしない。

「ん？仁じゃないか！どうかしたのかい？」

「んーん」

ポンポンと撫でてくれる太宰さんに抱きついたまま首を横に振る。

この声も匂いも感触も、全部が私を安心させる。

「…充電。服着替えるから帰る。」

「確かにそのままでは、風邪を引いてしまうね。ほら、お連れが待ってるよ。」

そっと手を離す彼から離れると「バイバイ」と手をふって車に戻る。

待っていてくれた有ちゃんに「ありがと」と呟く。

「いーのいーの！よし、じゃあ飛ばすよー！」

グッとアクセルを踏み込んだ有ちゃんの車に揺られて、私は眠りに落ちた。