十一月末 ページ32
伊黒様の煢然とした背中に布団をかける(いや、伊黒様は頼りがいもあるし蜜璃様もいるけど。なんなら鏑丸や俺もいるけど)。……よほどお疲れだったのだろう、湯浴みをしてそのままの格好で眠っていた。髪はまだ濡れていたし、寝間着だって中途半端にしか着ていない。
まあ布団に運んだし髪も拭いたよね。伊黒様が宇髄様みたいな体型じゃなくてよかった、俺でも運べる。うん。鏑丸は鏑丸用の寝具で眠りこけている。爬虫類だからこの時期はきつかろうという伊黒様の計らいである。
眠る伊黒様の隣に座った。その髪を撫で付け、少し湿気っていたので顔をしかめる。拭きが足りなかったかと思うが、あまりごしごしやって起こすのもなんだ。
……ただ、そろそろ師走。夜は寒い。さて、どうするか。湯たんぽでも用意して来ようかと立ち上がりかけて後ろに倒れた。え、どうした? と思ったら着物の裾を思い切り握りしめられていた。……なるほど。
……なるほど? どうしろと?
八月のことを思い出す。昔の夢を見て、ふらふらと伊黒様の部屋の前に行き『部屋の前で寝るくらいなら入ってこい』と叱られたあの日。
「伊黒様、無意識でいいので聞いてください。布団もう一式敷きますから。離れないので少し手を離してくださいますか?」
「…………」
手が緩んだ。さすが柱、無意識でもある程度の意思疏通ならできる。このまま離れてもおそらくバレないが……まあ、好き好んで約束を破る俺ではない。
布団をもう一式敷く。伊黒様はすやすやと穏やかな寝息を立てているので一安心。布団に入り、伊黒様に毛布をもう一枚かけて明かりを消す。
「おやすみなさい、伊黒様」
目を閉じたら、……小さな声で紡がれる寝言が聞こえた。
「……死んでくれるなよ」
そして俺は、進んで約束を破る男ではないから、それに返事はしなかった。
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紅葉蓮(プロフ) - ゆうさん» ありがとうございます!!あと少しで一旦完結の予定ですので、頑張ります! (2020年6月14日 19時) (レス) id: e2cb5510b9 (このIDを非表示/違反報告)
二嘉 - いいなコレ。気にいったぜ☆ (2020年6月3日 18時) (レス) id: 5a89568ca4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - めちゃくちゃ面白かったです!続き読みたいです! (2020年4月27日 21時) (レス) id: 7f11035070 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ - うむ。面白い!よもやよもや! (2020年3月4日 8時) (レス) id: 4b674ab2ae (このIDを非表示/違反報告)
紅葉蓮(プロフ) - 紫呉さん» いやほんとそれですよね…! (2020年2月25日 10時) (レス) id: e2cb5510b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉蓮 | 作成日時:2019年11月25日 11時