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「伊黒様、こちら覚書です。お納めください」
「ご苦労、加賀見」
「大したことはしていません」
アオイさんの説明が分かりやすかった。年下なのにとてもしっかりしている。しのぶ様の教育はもちろん、素敵な親に育てられたのだろう。……きっともういないのだろうが。
「加賀見は、画家になる気はもうないのか」
「ありません。腰を入れて絵を描くのなら、鍛練をした方がいいでしょう」
「……そうか」
伊黒様は少し悲しげに眉を寄せた。描いてないわけではありませんよ、と言うとちょっと笑った。伊黒様は俺の家がどうなっていたのか知っているので、俺が心底絵が好きなのだと思っているのだろう。実際絵は好きだ。けれど一番見せたい相手はもういないので、筆を執る機会は自然と減る。
まあ蜜璃様と伊黒様の絵を描いたりはしているのだが。もし見られたら尾行がバレる気がする。
「今度俳句を詠んだらお前に絵でも描いてもらおうと思ったのだが」
「それはもちろん描きます。描きたいです」
「そうか。……そこまで笑顔になるとは思わなかった……」
推しの俳句に絵をつけるとかただ最高なだけでは? 生きててよかった。それまで死ねない。伊黒様の俳句は彼の内面の美しさや優しさが滲み出ているのでとても好きである。
「まだ茶が残っている。飲め」
「はい、いただきます」
風鈴が鳴る。それで涼しくなるわけではないけど、心が落ち着いた。
暑さは嫌いだが、梅雨ほどは嫌いじゃない。伊黒様の薄着も拝めるし。この人、手足の筋肉の付きかたが綺麗なのである。『技』で柱になった方だからだろうか……。
「明日は甘露寺と出かける。かき氷が食べたいそうだ」
「かき氷! いいですね、いってらっしゃいませ」
「お前もたまにはどこかに出掛けたらどうだ。暑さにかまけて引きこもっていると体が鈍るぞ」
「……そうですね、その日は俺も出かけることにします」
尾行に。汗でどぎまぎする伊黒様とかが見られるかもしれない。夏はそういうことが起きがち。暑さの利点はそういうところだ。
「ついでにそうめんでも買ってきます」
「頼む」
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紅葉蓮(プロフ) - ゆうさん» ありがとうございます!!あと少しで一旦完結の予定ですので、頑張ります! (2020年6月14日 19時) (レス) id: e2cb5510b9 (このIDを非表示/違反報告)
二嘉 - いいなコレ。気にいったぜ☆ (2020年6月3日 18時) (レス) id: 5a89568ca4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - めちゃくちゃ面白かったです!続き読みたいです! (2020年4月27日 21時) (レス) id: 7f11035070 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ - うむ。面白い!よもやよもや! (2020年3月4日 8時) (レス) id: 4b674ab2ae (このIDを非表示/違反報告)
紅葉蓮(プロフ) - 紫呉さん» いやほんとそれですよね…! (2020年2月25日 10時) (レス) id: e2cb5510b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉蓮 | 作成日時:2019年11月25日 11時