第二十九話 ページ30
目の前にいる中年男性──ああもうおっさんでいいわ──が愉悦にまみれた笑みを浮かべ、宗三左文字の手首をつかんだ。
「宗三! ダメだ宗三! 俺なら大丈夫だ、なあ、宗三! やめてくれ……!」
薬研が必死に引き留める声が聞こえるが、私は振り返れない。宗三左文字は、振り返らなかった。
場面が移る。誰の意識だろう、と思うが伸ばしている手にはめられた白い手袋と側にいる眼帯をした薬研、知らない刀剣男士を見て長谷部と呼ばれたやつか、と思い至る。
長谷部は新しく来た審神者に話しかけていた。前任のあのおっさんがしなかった手入れをしてくれたその若い女性なら、と長谷部が思ったのを感じる。
地下牢へ向かい、宗三左文字を見せる。今と違うのは足があるところだ。女性は呪具を振り上げ──解呪しなかった。
呪具の効果か切り落とされる足。声のない悲鳴に哄笑。一番近くにいた長谷部が反射的に無意識の範疇でその審神者に刀を振り上げ殺そうとし、結界に弾かれた。
全身に痛みと熱さが走り抜ける。まあ私は感じていないので、何となく理解しただけだが。口から大量の血が溢れた。たぶん、呪い。
審神者の声に逆らえない。動けないし起き上がれない。殺したい。殺してやりたい、だが長谷部は動けなかった。言霊、って言うんだっけ?
目を背けたい光景だけど、長谷部が目をそらさないからそらせない。
他の刀剣男士も動けない。苦悶の表情で、必死に足掻こうとしているのに。
あぁでも腹が立つ。心の底からムカつく。何してくれとんじゃゴラァと思うもその意思が相手に通じるわけもない。
そして、
「おい審神者、起きないとこの狐面剥ぐぞ」
「お許しをっ!」
おっそろしい脅しを目覚ましに、私の意識は覚醒した。
「主、大丈夫!? 急に倒れて……」
「あ、うん肉体は元気……あっ呪い! 浄化しないと!」
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作者名:紅葉蓮 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月28日 7時