狐面の審神者は自由を謳歌したい【ブラック本丸】 (ページ29)

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第二十八話ページ29

長谷部、とめっちゃ一般的そうな名前で呼ばれた刀剣男士。初っぱなからぶちギレているので私はもうちゃっちゃっと終わらせてとっとと退散することにしました。

「燭台切、薬研、もうちょっと頑張って！」
「わかった！早くしてね！」

今度は手。食い込んだ鎖のみを破壊するため、箒のような形状の針金細工みたいな呪具を向ける。これは、呪具を壊すための呪具である。

鎖ですら呪具でじわじわと霊力を侵食していくらしいこっっわ。侵食されたらもうガチで堕ちるらしい。そうなったらこの辺にある呪具だけじゃあ事足りず、札とかもっと高位な道具とか用意しないとダメだとか。

「セクタムセンプラ！」

首の鎖ごとパキンと音を立て砕け散った。最後は、目だ。

黒布に覆われている目。私は、ないと聞いた両眼に見据えられているような錯覚を覚えた。

「ピアニッシモ！」
「もはや呪文ですらない！確かにそれっぽいけどさ！」

燭台切律儀。

黒いどろどろが涙のように、今までで一番多くの量こぼれる。……私は、それに靴越しだが触れた。

鮮明に、映像を見ているかのように、頭に記憶が流れ込んでくる。

＊

「僕ならどんな目に合わせても構いません。二度焼け再刃されようと、僕は天下人にもっとも愛され欲された刀、……実験にはよい素材でしょう？それとも、貴方は僕の価値すらわからない愚物ですか？」

私は宗三左文字の目線で物事を見ているのだろうか。目の前にいるのはごろりと落ちた眼球を呆然と見つめる右目のない薬研と、審神者であろう中年男性がいた。

私は、とっさに宗三左文字は嘘をついていると感じた。宗三左文字は自分にそんな価値なんてまるで感じていない。刀剣男士となっても籠の鳥であり続けている自分に対する評価が、恐ろしいほどに低い。

そのことがわかってしまった。