54 ページ5
頭を、頭を冷やさなければ。
廊下を駆けていると、ちらほらと見える兵士が不思議そうに目を向けてくる。
だがそれらを無視してAは息が切れるまで走り続けた。
ショッピくんと私が昔に会ったことがある？
本気でそう思って言っているとしたら……？
『(いや、そんなわけない)』
十何年も前の話のことだ。小さい頃に会ったなんて期間が限られている、覚えているはずがない。
そうだといいななんて、結局は願望だ。
祖父は記憶のない空白の時期、私はβ国にずっと住んでいたと話していた。
……我々国に自分がいたなんて過去は、どうあがいても存在しないのだ。
『はぁ……』
駆け足はやがて早足となり、歩きに変わってからやっと冷静さを取り戻した。
『あ……インカム忘れた』
コネシマに常につけろと言われたのに、また忘れてしまった。
そのまま自室に戻るにもショッピと出くわしそうで、どうしようかと思い悩む。
夢のような時間の中、あんな思わせぶりなことを言った彼が部屋にまだいるかもしれない。
それが怖い。
『(……いや、「やっぱり違う」と言われるのが怖いんだ。私)』
持ち上げられた上で落とされる可能性をAは密かに考えていた。
───私は彼のなにものでもないと、彼の口から直接言われるのが怖い。
『(そもそも今は男だと思われているのに、そんな先輩と過去に出会っていたところで何って話よね)』
自嘲気味に笑うと、涙がこみ上げてきた。
『失恋……しちゃったな』
とぼとぼと移動して城門前まで差しかかると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
門前で騒ぎが起きているようである。すぐにAは幹部の顔つきに戻った。
『何があった？』
だがすっかり気が緩んでいたAは、なんの警戒もせずに城の兵士に話しかけに行った。
すると警備の兵士を振り払ってまっすぐAに突っ込んできた男の姿があった。
「我々国の犬がぁぁぁ！！」
ぶつかる、と思ったらドンッ、という衝撃とともに腹部が熱くなる。
鋭利なもので刺された感覚。これは───ナイフだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 705人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
セネリオ - めっちゃ良き！！sypくんのSっ気が萌える…！これからも応援してます！ (2022年12月27日 10時) (
レス) @page30 id: bb7bb5003e (このIDを非表示/違反報告)
さーたん(プロフ) - syoくんの台詞に心が惹かれました！！！！！ これからも更新よろしくお願いしますm(__)m (2022年6月24日 2時) (レス) @page13 id: 3978148763 (このIDを非表示/違反報告)
える＠脅威推し - shpくんのセリフがぁぁぁぁぁぁ！！！！！かっこいいいいいいいい！！！！ (2022年6月23日 14時) (レス) @page13 id: e5ffed06b8 (このIDを非表示/違反報告)
える＠脅威推し - knさん本当に男装女子に気づかずセクハラしてそう(((( （偏見） (2022年6月22日 11時) (レス) @page12 id: e5ffed06b8 (このIDを非表示/違反報告)
える＠脅威推し - 続編おめでとうございます！！ (2022年6月15日 20時) (レス) @page7 id: 9a21cb3d54 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：REO | 作成日時：2022年6月7日 9時
