神は我が力なり【d!】 (ページ16)

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曙の明星ページ16

ｷﾞｨｨ、と重厚な扉が開かれる。まるで悲鳴にも聞こえる其れは、聴く者の恐怖を駆り立てるには十分だった。

「言われた通り、連れてきましたよ。」

Aを隠す様に自身の後にやり、暗然とした部屋の奥の奥、禍々しい玉座に深く腰掛ける男に話しかけた。蝋燭の僅かな灯りしかない部屋は、夜目が利かないAには酷くおどろおどろしいものの様だ。

「ほう、其れがお前の"妹"か。チーノ。」

地を揺らすような低音を響かせ、ゆったりと立ち上がる男。金の蝉鬢と胸焼けのする色気に溢れた紅唇はまるで天使の様だが、チーノのものよりも一回りは大きいその黒い羽が、彼が紛れも無く悪魔であることをたらしめていた。

「歓迎しよう、私が魔界を統べる悪魔＿＿＿＿まァ、所謂"魔王(サタン)"だな。」

グルッペンと呼んでくれ、そう言ってAに手を差し伸べる彼ら2人はその浮世離れした容姿からか何処か似ていた、まるで兄妹のような＿＿＿＿。

「プレゲトン川にいた様だが、これはまた辺鄙な所に落ちてきた物だ。」

くくく、と幼子を見る様な顔で笑いながらAの頭を撫でるグルッペンと、ぐ、と眉根に皺を寄せAを引き戻すチーノ。

「血の契を交わした、だから別にええでしょ。
Aは俺の妹ですよ。」

Aを自分の腕の中に捕らえるように抱え、彼に向き直るチーノと目を丸くさせるグルッペン。

「適合したのか？お前の血が。」

それは面白いと満足気に微笑んで、玉座に座り直すグルッペン。

「何にせよ、そいつと行動するなら気を張るべきだな。そいつの加護は俺ら悪魔にとっての糧になりうる。」

「わかってますよ、そんな「その割にはお前以外の悪魔の印が付けられてるようだが？」……。」

小馬鹿にしたような彼の物言いに忌々しげに舌打ちを零すチーノ。

「不安なら俺が預かってやってもええゾ。」

とんとんと自身の膝の上を指で指しAを見遣るグルッペンと話についていけず目をぱちくりとさせるA。

「遠慮しときます、Aは"俺の"妹なんで。」

逃がすまいと強くAを抱え、くるりと踵を返す。

「三時間後だ、三時間後に彼奴らを集めておくからジュデッカに戻れよ。」

「Aをどうするつもりですか。」

「事情が事情だからな、彼奴らにも知らせとかなあかんやろ。一人で彼奴らの相手したいなら話は別やが。」

グルッペンの言葉に不機嫌そうにもう一度舌打ちを零し、今度こそ橙の焔が彼等を包み消えていった。