神は我が力なり【d!】 (ページ12)

今日:7 hit、昨日:4 hit、合計:12,665 hit

破壊者ページ12

ジュデッカを初め、魔界は常に薄暗く陰鬱である。
数々の悪魔の中でも上級悪魔ばかりの此処は他と比べてもより魔窟である。

「チーノさ…「お兄ちゃん。」、え。」

「Aと俺は家族なんやから、な？」

橙色の瞳を鈍く輝かせ弧を浮かべる彼は、敵意は無い筈なのにとこか背筋をヒヤリとさせるものがあった。

「…兄様。」

はて、彼は本当に自分の血縁だったかとその双眸を見つめる度に脳に靄がかかる様な感覚に陥る。

「あの…もう自分で歩けますので…」

ぐいと控えめに彼を押してみるが、その腕は緩まるどころかよりキツくなった。

「あかんよ、転んで怪我でもしたらどないするん。」

そう諭す様に頭を撫でられ、子供でもないのにとかぁと頬が熱くなる。

「あれぇ、チーノが女連れて歩いとる。」

不意にふわりと鼻腔をつくビターな紫煙。その奥から現れたのはまた随分な色男だった。

「げぇ、鬱先生。」

「げってなんやねん、どうも僕です〜。」

ひらひらと病的に白く細い手を振りながら此方へ歩く何処か胡散臭い笑顔の男。彼こそが悪魔の中でも並外れた"好色"の持ち主、アスモデウスこと鬱先生だった。

「何やえらい可愛らしいコ連れとるやんけ。」

ケラケラと笑いながら此方を覗き込む彼とかちりと目が合った瞬間、Aは何処か懐かしい様な、それでいて酷く胸が痛む感覚に陥った。
そしてそれは彼も同じ様で藍色の瞳から、つうと涙が流れ落ちていた。

「は、はは」

「何笑いながら泣いとんねん、きしよ。」

2人だけの空間に置いていかれたような気がして、チーノはむすくれて鬱先生からAを隠すように後ろへやった。

「懐かしい、違う…憎い？はは、分からん、けど……

なぁ、僕らってやっぱ運命や。」

ずい、とチーノを押しのけて藍の目を甘く溶かしながら彼はAの額にキスをした。

「ぇ、」

「ッ、このッ！！」

「感動の再会や、邪魔すんなチーノ。」

途端、おぞましい程の魔力で鬱に殴り掛かるチーノと其れを軽くいなす鬱。

「"俺"の妹や、手ぇ出すなら殺す。」

「やれるもんならやったええんちゃん？負ける気せんけど。」

気温が一気に下がり、一触即発の空気の中。先に動いたのは鬱たった。ずず、と紫煙が彼を包み、徐々に姿を隠していく。

「はッ、大口叩いて逃げる気っすか。」

「ええねん、印はつけたから。じゃあ、Aちゃん。」

また今度、と手を振り何処か懐かしいシガーの香りを残して彼は消えた。