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Side Yugo
“高地、入ってきて。”
大我の緩い声で呼ばれる。
「樹くん、この人がこの前から話してた高地優吾。」
「こんにちは。高地っていいます。」
「…こんにちは。」
「じゃ、俺仕事戻るから。」
そう言って俺と樹くんだけを病室に残した。
最初から2人はなかなかハードルが高いんだけど。
持ち前の笑顔で乗り切ろうとする。
「どうしたの？」
じっと、顔を見つめられた俺は
そう言いながら近くの椅子に座った。
「…なにもない。」
近づいても怖がる様子はない。
会話もしっかりできる。
でも、大我の言っていることを思い出した。
『喘息の発作の時も苦しくても泣かなくて…なんか昔の高地に似てる。』
なんとなく大我の言っていたことを理解できた。
無理をしているんだろう。
痛いとか、怖いとか、苦しいとか、
そういう感情を今まで出してこなかったから。
その日は多くは会話せず、俺が持ってきた落書き帳に絵を描いている姿を俺はそれをずっと眺めていた。
・
樹くんの病室をでて、大我と夜食事をしてきたから、思いの外遅くなってしまった。
みんな寝たかな。
「ただいまー。」
「おかえり。どうだった?」
「うん、まぁ大我の言ってた通りって感じ。」
「そっか。」
彼は阿部亮平、通称阿部ちゃん。
俺と一緒に、この家…この”hero”と名付けられた施設で職員をしている。
他の施設とまた違うのが、ここは、病気を持つ子供たちが集まっている、ということ。
阿部ちゃんは医師の資格、
俺は看護師の資格をそれぞれ持っている。
「3人とも特に変わりなし？」
「うん、大丈夫。」
今この家に住んでいるのは、
北斗、ジェシー、慎太郎の3人だ。
少ないかもしれないが、慎太郎とジェシーが2人で10人分くらいのうるささがあるから、静かではなく、賑やかな…いやうるさい日々を送っている。
「…樹くんのこと、引き取るの?」
俺もそれをずっと考えていた。
樹くんの両親は火事で今危険な状態らしい。
ただ、樹くんの状態を見て、
虐待されているというのは一目瞭然で。
それに、樹くんは喘息を患ってるらしい。
それもふまえて、大我は引き取って欲しい、と思ったから俺に会わせたんだろうけど。
樹くんを見てると、
昔の自分を思い出すようで苦しくなるから…
「…まだ分からないかな。」
それが俺の今の答えだった。
「…俺はもう1人増えても大丈夫だよ。
あんまり深く考えすぎんなよ。」
「うん、ありがと。」
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作者名：Moku | 作成日時：2020年5月23日 8時
