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Side Taiga
北斗はこの時間、眠っている。
珍しいことではない。
なんなら、起きているほうが珍しい気がする。
ただ、眠っているとはいえ、顔を見たくなるから。
いつも家に帰ると手を洗い、
うがいをしてすぐに彼の部屋へ向かう。
うん、よく眠れているみたい。
まだまだ幼い顔で眠る北斗。
…彼も、俺と同じように、虐められてた。
でも俺と違うのは、中学生の時だったということ。
高3の俺でさえ、こんなにこたえている、というのに中学生の北斗は、そのことを1年間も1人で耐えていた。
知らなかった。
俺も、母さんも父さんも、
北斗も懐いているジェシーだって。
もともと感情表現が苦手な子ではあったけど、
俺らの前ではよく話す子だった。
北斗の演技が上手かったのか。
俺らが彼の異変に気付けなかっただけか。
前者であって欲しいけど、
それは俺のただの言い訳だ。
気づいたのは、「北斗が階段から落ちた。」
という、母さんからの電話だった。
それも、ただただ、落ちたのではない。
同級生に背中を押された、と。
幸い、彼の運動神経の良さが功を奏したのか、
腕の骨折だけで済んだ。
……いや、違う。
怪我こそ腕の骨折だけで済んだけど、
心の病気を発症していた。
様々な症状があるけど、
幻聴や幻覚をみたり、体が疲れやすかったり…
眠っても、悪夢を見たりする。
だから、こうして気持ちよさそうに寝ている様子を見ると、安心するんだ。
「…んっ、た、いが？」
「あ、ごめん。起こしちゃった。おはよう。よく眠れた？」
「うん…」
目をごしごしと
擦っている北斗は、守りたいと思うような存在。
良かった。悪夢を見ていないなら。
北斗の調子は最近は安定している。
そんな時に俺が虐められている、なんて言えない。
あともう少しの辛抱。
あともう少し…
そう思っていた。
・
いつもは放課後に声をかけられるのに、その日は違った。
2時間目と3時間目の間だっただろうか。
俺が唯一、この高校で仲良くしている、慎太郎と話すことが俺が精神を保っていられる、この高校に通っていられる理由だった。
彼のクラスの方に行き、廊下で話す。
「昨日さ、北斗が美味しいトマト料理作ってくれて、ほんと美味しかったぁ。」
「北斗くん、料理上手いんだ！いいな、美味しそう〜。」
昨日、北斗が作ってくれた料理の写真を慎太郎に見せていた。
その時、前から誰かがやってくる。
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作者名：Moku | 作成日時：2020年5月23日 8時
