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｢俺はお前のこと好きにならないよ｣。
その宣言通り、及川は私を好きにならなかった。
及川に何人もの彼女が出来、別れていくのを見てきた。でも私に手を出すことはただの一度だってなかった。
遊びでもいいから彼女にしてくれたらいいのに。１ヶ月だけでもいい。そうしたらもう未練なく及川のこと、諦められるのに。
そう言ったって及川は｢お前はちゃんとした男と付き合いな｣子供をあやす様に優しく頭を撫でるだけだった。
その唇で何度ほかの女の子にキスをして、その腕で何度ほかの女の子を抱きしめたのだろうか。
別に今更嫉妬なんてしない。そんなものしていたらこちらの身がもたない。
ただ、ほかの女の子たちと別の扱いをされるのがどうしても気に入らなかった。
どうして？私がお嬢様だから？
……聞いたことは無い、けど。聞いたってどうせうまくはぐらかされるだけなのだ。
はあ、と何度目かのため息を吐いた時、｢お嬢様、ご夕食を持って参りました｣扉を叩く音と声がした。
｢ありがとう、持ってきて｣
｢失礼します、今日の夕食は久々に洋食でございますよ｣
｢そうなの｣
｢……お嬢様、最近少し痩せたようですね。シェフや板前も心配していますよ。お嬢様は食が細いので｣
｢……そうかな｣
とは言いつつ、言われてみれば制服のスカートがまた緩くなった気がするし、同年代の子たちと比べて食が細いことは分かっていた。
心配そうに私を見つめる彼女を申し訳なくなって｢わかった、ちゃんと食べる｣と言うと、ほっとしたように顔を緩ませて、部屋を出ていった。
私が食が細い理由、本当はわかっているけど。それは一人では解決できないし、でも誰にも言えないこともわかっていた。
私は渋々お箸に手をつけ、嫌がる胃に無理やり押し込んだが結局完食はできなかった。
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作者名：彗 | 作成日時：2019年4月26日 13時
