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｢……｣
寒い、
はあ、と息を吐き出せば当然のようにそれは白く目の前を覆い、消えていった。
もう2月も終わりだと言うのに、一向に冬が去る気配は見せず、今日もしんしんと雪が容赦なく私の体温を奪っていく。
……まだかな。
傘に積もった雪を落としながら、もう寒さで麻痺してしまったつま先をローファーの中で動かす。
バス停で待ち続けて20分。まだ、来ない。
と、その時、赤の傘の端でちらりとスニーカーが動くのが見えた。
｢……なにやってんの、お前｣
｢……偶然、｣
｢嘘おっしゃい、俺の事待ってたでしょ｣
｢違う、自惚れないで。私が待ってたのはバス｣
｢じゃあなんで1本見送ったの｣
｢……｣
俺を騙すには詰めが甘いよ、と悔しがる私の前髪をさらりと撫でた。
視界の隅で、黒髪が揺れる。
｢寒い｣
｢俺のこと待つからでしょうが｣
｢早く来てくれないから｣
｢頼んでないじゃん〜｣
｢……｣
それは、そうだけど。
ぎゅ、と唇を噛み締めれば、｢あ、こら。女の子が唇を噛んじゃダメでしょ｣叱責の声が飛んでくる。
バスは、まだ来ない。
｢……おいかわ、｣
そっと舌先に男の名前を乗せれば、｢ん？｣甘いマスクをしたその男はあざとく顔をかしげてみせた。
｢……寒いよ｣
｢さっき聞いたよ｣
｢寒い｣
｢……｣
｢及川、寒い｣
手を突き出し、立て続けにそう言えば｢しょうがないな、わかったよ｣おもむろにポケットに突っ込んでいた手を私に差し出した。
｢……｣
｢なんだよその目は〜、あったかくなったでしょ｣
｢……｣
｢及川さんに感謝しなよね｣
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作者名：彗 | 作成日時：2019年4月26日 13時
