松風 ページ18
自分がいても肉壁にすら成り得るか怪しい。
そう判断した三日月は血の滲むほど拳を握りしめ、鶯丸に背を向けて走り出した。
情に流されず、最速で最善を判断できるところは助かるなと鶯丸は独りごちる。
三日月が薄情なわけではないが、これが情に熱く諦めを知らず退くことのできない……大包平のような奴だったならば、「援軍を呼んできてくれ」なんて望みの無い希望的観測を建前に逃がし、逃がされる方も建前だと分かりながら逃げなければならなかったろう。
そんな労力を割く余裕のない鶯丸に、三日月の対応は有難いことだった。
「さて、この体でどこまで行けるか」
せめて三日月が逃げ切るだけの時間を稼げれば良いんだが‥‥… 本当に、まるきりはじめて検非違使に遭遇した時と同じだな。
鶯丸は痛む体に鞭打って、まずは手近な短刀に斬りかかる。
そして転機は、まるで予想出来なかったほど早く訪れた。
「かまれるといたいですよ、野性ゆえ!」
鶯丸にとって馴染みのない声が、馴染みのある色を靡かせながら遡行軍を斬り伏せていく。
視界を遮る白さに一瞬だけ鶴丸かと思ったが、すぐにそれは腰ほどもある長い髪なのだと分かった。
狐色を基調とした着物に三条派の袴の刀剣男士。
鶯丸は彼を遠目に見たことがあるな、という程度しか知らない。
「鶯丸!」
思いもよらない援軍に呆気に取られていると、今度こそ聞き覚えのある声が鶯丸を呼んだ。
次いで「伏せろ!」と鋭い声。
反射的に身を伏せると、頭上を一筋の閃光が斬った。
『三日月宗近』
踏ん張りの強い極めて優美な太刀姿と、たなびく雲に浮かび上がる三日月を思わせる打除けが多く入っているのが特徴的な名刀。
天下五剣で最も美しいと言われる刀。
その切っ先が鶯丸の背後へ迫っていた敵の喉元へ吸い込まれるように振るわれれば、
パッと、赤が散った。
普段の世話の焼ける姿を置き去りにして刀としての本分を果たすその姿は嗚呼たしかに___美しかった。
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エメロン(プロフ) - mokohuさん» 新作公開楽しみにしています♪ (2022年11月2日 2時) (レス) id: 36fa45d99d (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - 初坊(ういぼう)さん» ありがとうございます!!!そしてコメント気付かず一年近くスルーしてしまってました!すみません。 (2022年11月1日 9時) (レス) id: ca838a122b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - エメロンさん» 別サイトまでありがとうございます。11月中には占ツクでも新作公開予定ですので!! (2022年11月1日 9時) (レス) id: ca838a122b (このIDを非表示/違反報告)
エメロン(プロフ) - ホームページいってきました( ゚Д゚)ノ……成り鶴 奮闘記…更新楽しみにしています! (2022年10月6日 13時) (レス) @page38 id: 36fa45d99d (このIDを非表示/違反報告)
初坊(ういぼう)(プロフ) - ひゃー、いつも楽しく読ませてもらってます!これからも更新楽しみに待たせて頂きます(´ω`*) (2021年11月20日 18時) (レス) @page38 id: 8f51cef084 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mokohu | 作者ホームページ:http://nanos.jp/atlant2d/
作成日時:2021年3月27日 14時