さあ今こそ己を叫べ! ページ31
桜花に喩えられるほど華やかな刃文が月光を反射する。
鋭く一閃された軌道は見事に検非違使の首を一撃で跳ね飛ばした。
「はッ…」
握られた本体から伝わる霊力に似た妖力。
流れ込み、湧き上がる熱に山姥切から熱い吐息が漏れ出る。
大太刀の仇とでも言わんが如く、間合いを詰め込んだ槍の突きが眼球を捉えんとするのを紙一重に躱す。
そのまま流れて背後で隙を窺っていた太刀の心の臓を貫いた。
「ははっ……!」
己の本体が、敵を貫いた感触。血の暖かさ、骨の固さ、肉の触感。
瞬く間に斬り伏せられた検非違使。
ピリッと斬り付けられた白い頬から瞳と同じ色をした鮮血が一筋滑り落ちる。
ヒュンッと刀に付いた血を振り飛ばし、彼女は「残り三体」と狩る獲物を数えた。
警戒心を強めた検非違使が鎧を鳴らして少し距離をとる。
そんな奴らに燃ゆる空の瞳が嘲るように歪んだ。
あら、その程度?
言葉にはせずとも、瞳が雄弁に語る。
ゾクゾクと肌が泡立つ。上がる口角を自覚してそっと口元を隠した。
睨み合うこと数秒。
先に動いたのは検非違使。
先程までとは違って四振りで連携し隙を無くしてくる敵に対し、彼女は刀を先頭の太刀に振り下ろした。
風を切る一撃はしかし太刀の髪を数本切るにしか至らず、ニヤリと笑った検非違使が斬り込まんと踏み込んだ時、スパンッと、下から刃が太刀の胴体から顎そして刀を握る片腕を斬り上げた。
虎切り!!
我流さが目立つ剣技だと思っていればあんなにも綺麗に技すら決めて魅せた。
体中に内から広がる歓喜の嵐。
魂すらも震わせ、油断すれば爆発してしまいそうなほどの高揚。
嗚呼、嗚呼!
致命傷には至らずとも重症で本体を取り落とした太刀はすでにただ邪魔な置物だ。
残る薙刀と槍が足場にしながら挟み込むように同時に襲いかかるのを見て、先程までの疲労困憊具合はどこに吹っ飛んだのか山姥切は気付けば取り落とされた検非違使の太刀を拾い上げて走り出していた。
気付いた彼女が驚きに目を見張る。
しかしその手に太刀を握っているのを見てすぐに長義に背を預ける姿勢をとった。
ザザッと土煙を上げ、彼女の背後からその命を刈り取らんと振るわれる薙刀の間に滑り込む。
そして湧き上がる衝動のままに斬り込み高らかと叫んだ。
備前長船長義。
正宗十哲の一人に名を連ね、長船四天王の一角も担う刀工。
その長義の最も優れた作品の一つ。
化け物切りの霊剣。
「俺が、俺こそが!長義が打った山姥切!!」
348人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「転生」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
翡翠琥珀@カリナと咲(プロフ) - ァ"ァ"ァ"好きぃ... (2022年3月31日 15時) (レス) @page42 id: cceed3ce75 (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - 返事がない只の屍のようだ。さん» ちょぎくんの布教が出来て嬉しいです!沼へようこそ。 (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - sesiroさん» ありがとうございます。成り鶴もよろしくお願いします (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - まるさん» ありがとうございます (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
返事がない只の屍のようだ。 - はじめまして!そして完結おめでとうございます!!大好きです!!!終わってしまい寂しいですがちょぎ君、思い出して貰えて良かったね゙ぇ〜!(T△T)ズビィ この小説を切っ掛けでちょぎ君にハマりました!ありがとうございます!!(謎)これからも頑張って下さい! (2021年3月5日 12時) (レス) id: 2157a47614 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:mokohu | 作者ホームページ:http://nanos.jp/atlant2d/
作成日時:2020年12月5日 14時