【文スト】この世界と番外編 その十五

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小泉Aはまだ若いながらも、海外で経験も積んだ医者である。
手術は短時間で終わらせ、術後の患者のケアも欠かさない。
噂では、父親は警察の上層部、母親は高名な医者であるらしい。







「来週の会合、パスで」







「そういう訳には行かないんだよ莫迦」







ノーサンキューと云わんばかりに肉そばを啜るAに与謝野が一発平手を入れる。
ここは食堂、今は昼休憩である。







「乱歩先生が行けばよろしいのでは？」







「他人の顔色伺って話する場の何が楽しいんだ。
まあ、出てくる料理は美味しいけど僕はごめんだぞ」







この病院の筆頭格である医者、江戸川乱歩がデザートのアイスを食べながらそう返す。
その隣では、新人の泉鏡花と同じく新人の宮沢賢治がいる。







「私も行きたく無いんですよ。
お偉い方々のお話についていけないし、私なんてまだ新人だし、面倒くさいし」







「後半のそれが本音だろう」







「この上なく面倒臭いですね」







「今回はアンタと太宰が行くんだよ。
一応アンタら二人、腕がいいって評判の外科医なんだから」







Aが心底嫌そうな顔をする。








「だって、今回の会合って…森大学病院と福地大学病院来てますよね」








「ん？あぁ、そうだねェ」








森大学病院、福地大学病院。
民間病院であり、福沢が院長を務めているここよりも大きく、
規模も人数も桁違いの大学病院だ。







「なんで行きたくないんだい？」







「それは…」








「あれー？Aさん、あの二つの病院からの引き抜きの話、断ったんですか？」








「「「…は！？」」」








新人の賢治の発言に、Aはゴホッと噎せた。
他の面々もお茶を噴き出している。








「アンタ引き抜きされてたのかい！？」








「断りました！」








「よぉしよくやった！院長に報告しないと！」








「だから来週行きたくありません！」








「それとこれとは別の話、行ってきな」








「チッ」








「舌打ちやめな」








そんな時だった、Aの携帯に緊急オペの連絡が入ったのは。
執刀医はA、彼女は立ち上がり、白衣を羽織るとそのまま立ち去る。







「では、これから手術なので」







心なしか嬉しそうなのは気のせいだろう。
数時間後、太宰に執刀医を交代させられたAが再びキレることになるとは知らずに。

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