【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 7

二百九十一話 ［誰が悪いの？］ ページ43

止血をする為に服を脱いだAの白い肩には、赤い傷があった。
背中を向けているとはいえ、女性の体をジロジロ見るわけには行かず、
立原は体を見ないように傷の手当てをする。


「…」



「…」



背を向けたAはなにも云わない、立原も。
ただ、上階で誰かが戦う音だけが響く。



「…お前の」



漸く口を開いたのは立原の方だった。



「お前の母親…どんな母親だったんだ」



背を向けたAの目が見開かれる。
そして、静かに口を開いた。



「…知らない」



「知らないって…」



「母は…私が生まれて直ぐに亡くなった」



「！」



「親戚とも疎遠だったから…家族は父だけだった」



「…母親のこと、覚えてねぇのか」



Aは小さく頷く。
立原の手が一瞬止まる。



「父は警察官だった…多分、重要な職についていたんだと思う。
…私が父に酷いことを云った日、亡くなった」



「…そう、か」



口からポロポロと言葉が溢れてくる。
こんなこと、他人に話すことなんて滅多にないのに。



「私は、父のように"正しい人"になりたかった」



兄貴のようになりたかった、それは立原の願いだった。
優秀な兄と比べられ、兄のようになりたかった。



「…俺も、兄貴みたいになりたかった」



「…」



「兄貴が死んだ時、周りは云ったよ。
何故お前ではなくあの子が、お前が代わりになればって」



「！」



「兄貴は、探偵社の女医に殺された」



Aが息を飲む音が聞こえた。
その瞬間、以前に聞いた与謝野の話と、立原の話が繋がる。



「…貴方は、与謝野先生が追い込んでしまった人の弟、か」



「…あぁ」



「…与謝野先生は」



「生きてる、だが処刑の日は近い」



消毒をした傷口に包帯を巻く。



「…連鎖は、きっと終わらない。
誰かが誰かを恨み、そして復讐の連鎖は続く」



「なにが云いてぇんだ」



「…私も、母を追い込んだ奴等をこの手で地獄に落としてやりたいと思った」



母を追い込んだ？魔女を？
立原は理解が追いつかず、どういうことだ、とかすれた声をあげる。



「母は政府機関により、追い込まれた。
…私は、なにも知らなかった」



そんな話知らない、聞かされてない。
なのに、何故思うのだろう。
この話は嘘ではないと、思ってしまうのだろう。



「それでも、貴方は魔女が全て悪いと思う？」



この復讐の連鎖は、いったい誰が悪いのだろうか。

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