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二百六十九話 [遺恨の過去を越えて] ページ21

本当は気づいていたのだ。
自分を見つめる安吾の目が、恐怖とは別に罪悪感に歪んでいたことを。



「貴方は何も悪くないのに、過去の政府の所業のせいで辛い思いをさせてしまった」



全く関係の無い事なのに、彼は魔女の過去を知ってしまったが故に、
彼女に酷似したAに罪の意識を抱いていた。
"人生を滅茶苦茶にしてしまった少女"の娘の顔を、まともに見ることが出来なかったのだ。



「本当に、ごめんなさい」




魔女と見紛うほどよく似た顔で、Aは安吾に謝罪する。
彼らに罪の意識を植えつけた愚かさ。
そして"長らくその事実を知らなかった"という無知さ。
恨むべきは彼らでは無いのにあんな言動をしてしまった事も全て。



「私の存在が、貴方達を余計に苦しめてしまった」



この命は、生まれた瞬間から罪なのだ。
生きている事が、周囲を不幸にする。
この瞬間それを痛感する。



「謝らないでください」


再度頭を下げた時、安吾の震える声が響いた。
顔を上げると、彼は肩を震わせながらゆっくり眼鏡を取った。



「初めて彼女の過去を見た時、僕は自分がやってしまった事のように罪の意識に苛まれました。
それだけ…過去の政府とはいえ許される所業では無かった」



忘れもしないあの日、マフィアの潜入捜査を終え、
大切な友人を一人失い、傷心のままに教えられた政府の闇。
どんな任務も心を乱さず行ってきた安吾ですら受け入れられなかった一人の少女の地獄の記録。



「僕は…貴女を見た瞬間、膝をついて謝りたかった」



申し訳無かった、死ぬまで恨んでくれと。
現在の特務課は関わってはいないとはいえ、その過去を隠蔽した。
だからこそ、



「"日の当たる世界で、彼女が生きられなかった道を生きて欲しい"…そう思いました」



その言葉に、Aは目を見開く。
過去の因縁のせいで、互いの思いが見えなくなっていた。
復讐の果てには復讐しかないことを知っていながら。




「僕達は貴女に恨まれて仕方ない。
ですが…もし、貴女がまだこの世界を捨てていないのなら、力を貸してくれますか」



この国を、世界を救う為に。
差し出された安吾の手は震えていた。
それをAはかき消すように強く握り返した。



「勿論です、怨恨は…今は忘れましょう」



凛としたその姿は、魔女では無かった。
強く、気高く生きようとするその姿に、慥かな未来を確信しながら。

二百七十話 [一縷の希望、未来へ]→←二百六十八話 [本当は知っていた]



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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

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