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二百五十九話 [信じた先の未来] ページ11

安吾はまるで、加害者が被害者を見つめるような目をしていた。
悲しそうな、それでいて辛そうな。


『どうしてそんな目をするの?』



かつて安吾に会った時も、彼はこんな目をしていた。
"共喰い"の際、一瞬だけ安吾はAを見て辛そうな顔をしていた。
加害者の娘である筈の自分に、何故そんな目を向けるのだろうと。
でも、当時はそれどころではなくそれほど気にならなかった。



『まだ、希望がある?』



これは賭けだった。
あちらの世界の知識と、こちらで得た情報。
それらを照らし合わせた時、母の声を思い出した。



『信じなさい』



己が一度、抱いた希望を、賭けを信じろ。
Aの銃口が、ゆっくりと下ろされていく。
その瞬間、銃声が響き渡った。



ガコン!



安吾は、敦の真横に銃弾を放ち、マンホールの蓋をあけると下水道に敦とAを落とした。
まともに受け身も取れず、Aは敦の上に落下した。
下からぐぇっ、という声と鈍い音がした気がする。



「ごめん」



「うっ…大丈夫…」



Aが敦の上から退くと同時に、虫太郎と鏡花も落ちてきた。
やったのは、安吾だった。



「なんで…」



安吾の方を見上げ、何か云おうとした敦の口を手で塞ぐ。
チラリと安吾の方を見てみると、彼は唇に指を当て、
静かにしろと云う合図を送ってきた。


「司令!標的は!」


「逃亡しました。
虎の異能者が未知の力で抵抗し…西に逃亡。一帯の封鎖を」


特殊部隊の足音が、遠ざかっていくのが聞こえた。
しばらくすると、彼は下水道を見下ろし、
先程とは打って変わって柔らかな表情を浮かべた。



「これで、ドストエフスキーは我々が対立していると思い込むでしょう」



その言葉は、"安吾がこちら側"だという事を示すには十分すぎるものだった。



「…信じろって、こういう事か…」



あそこで激情の赴くまま撃たなくて良かった。
自分を落ち着かせるように一度深呼吸をし、Aは拳銃を懐にしまった。



『頼んだよ』



今も耳に残る、太宰の言葉。
あれすら忘れて、全てを捨てそうになった。


「約束、したんだから」



この危機から仲間を救え、と。
絶望も怒りも失望も今は全て飲み込む。



「貴方との約束は、絶対に破らない」



太宰に似た、砂色のベストが僅かに地下から吹き付ける風に僅かに揺れた。

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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

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